佐野元春 ミュージッククリップ・コンテスト 受賞作発表

今回のコンテストには40作品の参加があり、作品数でも内容面でも、2007年の「COYOTE」のコンテストから、機材やソフトの進歩により、映像制作がより身近になったことが実感されました。また、前回コンテストで入賞、今や「ZOOEY」ビデオクリップの制作も手がける、映像ディレクター近浦 啓氏が審査委員に加わり、本コンテストが一層意義深いものとなりました。

6月初頭に行われた審査会では、予選を通過した25作品について、「一般部門」と「アニメーション部門」に分け、1作品ずつ上映しながら、審査が行われました。「印象/アート性/意外性/独自性/ユーモア性」の5項目の選考基準での採点と討議を経て、以下の通り各賞が決定しました。

一般部門

最優秀作品●perrierさん:「グレイス新聞」

各審査委員が「泣ける」「完璧」と口を揃えて絶賛、最高点を獲得して文句なく最優秀作品となりました。
「新聞というモチーフに至る楽曲への解釈の深さ、新聞の枠でシーンを切り取る発想、そして最後に新聞が届くというシナリオ、途中から動きが出てくるテンポ感、一つ一つの構図の素晴らしさ、すべてに感銘した。」(近浦)
「演奏シーンを加えれば正式なPVになる。'GRACE=慈悲'で世界はどう再構成されるか? という問いかけがしっかり描かれ、どんな年代でも伝わりやすい普遍性がある。」(佐野)

優秀作品賞 近浦賞●千葉高広さん:「世界は慈悲を待っている」

一見してプロの仕事とわかるクオリティ、唯一'GRACE=慈悲'を裏側から捉えた着眼点も高く評価された。
「ポジティブな他の作品と真逆の映像がつくと、曲の響きもこれだけ変わることに驚いた。男っぽい曲に聞こえた。アート性と抽象化した演出の力で、何度も読み込める短編映画のような作品となっている。」(横溝)
「'GRACE=慈悲'が希求されるシリアスな現実からの視点は、この曲を書いた心情にとても近い。殺されたcoyoteから始まるなど、佐野の音楽を深く聞き込んでくれている。」(佐野)

優秀作品賞 今井賞●のっぽさん:「世界は慈悲を待っている」《姉妹編》

前回のコンテストの最優秀作品の作者による作品で、姉妹が前作から大きく成長している点も感動を誘った。
「思わず粗探したくなってしまうくらい、とてもまとまっている。'GRACE=慈悲'を象徴する球体、人物、雨から虹への展開など、曲のテーマをしっかり捉えたモチーフと構成力が光った。」(横溝)
「オープニングの雨がイントロとマッチ、サビに向かう高揚感の演出など、楽曲との同期のとれた演出がしっかりできている。」(近浦)

アニメーション部門

最優秀作品●熱海ののさん

最優秀作品と1点差という素晴らしい評価を得たアニメーション作品。

「可愛すぎずシニカルな面もあるイラストのクオリティが高く、制作の労力を想像すると脱帽です。」(古平)
「イラスト一つ一つが歌詞と同期しつつ意味が深く、見るたびに発見がある。明るい皮肉と子供でも判るポップさに溢れている。」(佐野)

優秀作品賞 paozouhouseさん

横に流れる情景に様々なシュールなCGが登場し、楽曲のポップさを見事に表現している作品。

「リンゴをモティーフに持って来たのがアダムとイブを連想させた。」(古平)
「シュールなCGが面白い。途中でスピードの変化があるともっと得点を集めただろう。」(近浦)

優秀作品賞 co ringoさん 世界は慈悲を待っている(リンゴの家族)

手描きのイラストによるアニメーション作品。ノスタルジーと暖かみを感じさせるタッチが特徴。

「ちょっとレトロなタッチや細かい演出などから、プロのテクニックを感じた。」(今井)
「ほのぼのしたイラストで楽しかった。間がある演出で、飽きずに見れた。」(横溝)

各審査員賞

ayuhideさん ジョー横溝 選》 「ZOOEY」を聴いた少年が'GRACE=慈悲'のマジックで、周囲の人間たちを変えていくストーリー。

「音楽の力というローリングストーンズ誌のテーマと重なり、中学時代に佐野さんの音楽に触れてからの自分とも重なる。アルバムのテーマ“愛”を一番表している作品。」(横溝)

ベンテンコゾウ キクノスケさん 古平正義 選》 古びたフィルム・タッチのフォトと、'grace'の文字の様々なタイポグラフィが組み合わされたアニメーション作品。

「スタイルがハッキリしてて、強い個性を感じる。ちょっとオシャレな分とちょっとダークな部分も感じさせて、楽曲の持つ深さとよく合っている」(古平)

千葉高広さん 近浦 啓 選》 優秀作品賞の1つ。シナリオ・演出・撮影・出演俳優、すべてがプロの仕事と審査員を唸らせた作品。

「この完成度に至るまでの労力と情熱が並大抵でないことが映像から伝わってくる。観る人に多くのことを感じさせる力があり、プロの志の高さを感じる。」(近浦)

のっぽさん 今井健史 選》 優秀作品賞の1つ。前コンテストの最優秀作品からの姉妹の成長が微笑ましい。

「デジタルツールの力を活用し、自分のイメージをしっかりとストーリーに落とし込めていて、アマチュアの環境での表現のとして非常に健闘している。」(今井)

佐野元春 賞

paozouhouseさん 佐野元春 選》 アニーション部門優秀作品賞の1つ。シュールなコラージュCGで楽曲の世界にアプローチした作品。

「いろんな出来事、シュールなモティーフが飽きさせず、楽曲とのシンクロもテンポよく、この曲のポップさをよく表現している。」(佐野)

神原孝夫さん 佐野元春 評》 タイムスリップしたサムライがこの世界に戸惑い彷徨うが、'GRACE=慈悲'='音楽'によって救われるという作品。

「タイムマシーン、サムライ、というモチーフは面白い。でも剣道着?(笑)つっこみ所はあるが、1人の演技で持たせている点で、努力賞!」(佐野)

RYUTistさん 佐野元春 評》 新潟のご当地アイドルグループによるカバーという意外な組み合わせが注目を集めた作品。

「都市文化の参照として「アイドル」を持って来たところが面白い。アイドルが歌っても成立する曲であると再発見した。こうしたコラボレーションも面白い!」(佐野)

佐野元春 総評

寄せられた映像の主人公は様々だった。この「世界は慈悲を待っている」という曲を、少年が歌っても、アイドルが歌っても、あるいは殺し屋が歌っても成立する。ここが音楽と映像のコラボレーションの面白い所だと思う。今回たくさんの作品を拝見して、音楽と映像の組み合わせによる表現の幅広さを改めて感じました。

選考会に参加しました。作品ひとつひとつに対して選考メンバーがそれぞれ専門の立場から意見を述べられていて、とても興味深かった。議論が熱心だったのは作品の質が高かったからだと思います。

音楽や映像を創造するとき時々気をはらうのが、わかりやすさとアート性、そして官能性のバランスです。この三つのバランスが揃うと音楽や映像は本来以上の力を放ちます。応募作品を拝見して、その点で心奪われる瞬間が何回もありました。

素晴らしい作品を寄せてくれた皆さん、ありがとう。