十代の時、元春の音楽に
takeo.nikaido

  十代の時、元春の音楽にゾッコンだった。シングル「ヤングブラッズ」が発売された日。レコード屋に駆け込んで購入。早足で家に帰り、シングルのパッケージを穴が空くほどの情熱で覗き込む。見開きのカヴァーの中には、元春が寄せたメッセージ。「大音量で聴け。大音量で歌え。」大型コンポのステレオのボリュームをMAXにした。ステレオと一緒に大声で叫んだ。近所には大迷惑な1時間だった。

 Zooeyを聞いた。会社にアマゾンからパッケージが届き、帰宅の電車の中で。周囲に迷惑にならないよう、音漏れがないイヤフォンを耳に突っ込んで。満員電車。疲れ切っている男性。微笑みながらスマートフォンに文字を打っている女性。ポータブルなゲーム機器をヘッドフォンでプレイしている学生。
 
 Zooyeは僕の目の前の景色をドラマティックな世界に変えた。

 満員電車の中で、乗客の押し合いへし合いの中で、僕はアルバムを聞き続けていた。至福の時だった。理由はない。ただ、元春が、コヨーテバンドのメンバーと、僕の生命の中にいただけ。やがて、あの十代の「ヤングブラッズ」の時の衝動が、僕の生命を突き動かした。

 気がついたら僕は、十代の頃のバンドメンバーに、メールをしていた。彼に連絡を取るのは、正月の挨拶以来。情熱なんて、こっぱずかしいけど、どうしようもない。言葉が指を動かしていた。

 「元春が新譜を出した。もういい年なのに、キャリア積んでるベテランなのに、この作品、初期衝動全開なんだ。ギターロックなんだ。そして無限にPOPなんだ。泣いてしまったんだ。ぜひ聞いてもらいたい。僕たちもいい年。だけど、初期衝動はありえるんじゃないか?やっぱり、オリジナルの曲でバンドやりたいんだ。一緒にやってくれないか?君の歌が聞きたいんだ。僕の歌も聞いて欲しい。」
 
  この後、この物語がどうなるか。それは、僕たち次第。

 さあ、ポーラスタアを見上げて、もう一度走り出してみようじゃないか。結果なんて気にするな。理由はない。ただ、君と会いたいだけだ。