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◆◆◆◆  佐野元春 and The Hobo King Band   ◆◆◆◆
◆◆◆◆   〜 THE BARN TOUR'98 Newsletter 〜   ◆◆◆◆
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                       Vol.10 <1998.4.10>

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★ノージからのごあいさつ★
 前回のメールで“大阪でファイナル!!”と書いたら、これから延期ぶんの東
京・神奈川公演に行く方々から「まだ終わってないのに〜」と文句ゆわれてし
まいました。しかしね、いちお気持ちのうえでは予定どおりで大阪がファイナ
ルだったのよ。
 じゃ、これからの渋谷公会堂と神奈川県民のライブは何なのか?
 それは、新たなアンコール・ツアーなのよ。
 初日が東京で、ファイナルが神奈川。
 ちょっと短いツアーですけどね、たぶん佐野さんもバンドもそーゆー気持ち
だと思います。大阪が終わった翌日、東京駅での別れ際にみんな「あと2本、
思いっきり楽しもうね」と言いあってましたもん。新鮮な気持ちでの2本。ど
んなドラマが見られるのか!?

 というわけで、今回は“ツアー・ファイナル”の涙あり涙ありの大阪編。
 もう、何から書いていいのかわからないので、今回は裏も表も一緒くたの日
記ふうでまとめてみました。
 長いよ。覚悟して読んでねっ。自分で書いてて、まいたなぁ……と思うくら
い長かったんですから。でも、いろいろあるんだからしかたない。
                              (4月10日)
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■ CONTENTS -----------------------------------------------------------
■Young Forever(3月27日・大阪フェスティバルホール)
■SO GOES THE SONG3月28日・大阪フェスティバルホール)
■Rock'n Roll Heart(3月29日・大阪フェスティバルホール)
■メールください
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■YOUNG FOREVER(3月27日・大阪フェスティバルホール)------------------


 朝10時すぎの東京駅発大阪行きのひかり号に乗る。メンバーとスタッフは、
すでに昨日大阪入りしている。そんなわけで、わたしは今朝は何時に着いても
よかったのだ。しかし、岩岡吾郎巨匠が一緒に行こうというので、早起きして10
時台に乗ったのだ。なのに、車内に巨匠の姿はない。さては寝坊しやがったな〜、
早起きしたあたしの立場はどーなる!? とカッカしながら駅弁を食らっている
と、同じ車両に一昨年デビューしたポップ・バンド“アップル&ペアーズ”の
岡田純(別名・レコもはソングライター)を発見!! 

 1年ぶりくらいの再会。次のレコーディングを佐橋さんにプロデュースして
もらえたらと思っているとか、佐野さんの初期シングルのような“3ミニッツ
・ポップス”をきわめたいとか……彼が次々とそんな話をするものだから、こ
うして大阪ライブに向かう新幹線で再会したことが偶然とは思えなくなってく
る。実は彼、佐野さんの大ファンなんである。そういえば、初めて会ったのも
フルーツの府中公演だったもんなぁ……。

 岡田くんは名古屋駅で降りた。別れ際、彼は言った。
「オレたちも、いつかノージさんを大阪フェスに招待するからね。待っててね!!」
 くーッ。若者よ、泣かせること言ってくれるじゃないのよ。

                     ****************************

 会場に着くと、まだメンバーは来ていなかった。楽屋には、ツアー・スタッ
フ中もっとも爽やかな好青年(←ノージ認定)の北澤だけ。うっしっし(←何
がだ?)。
 昨日は、有志スタッフとメンバーが佐野さんにたこ焼きをおごってもらった
という。アニキ担当ローディーの吉本(通称・ナニワ)が大阪出身なので、とー
ってもおいしいところに案内してくれたそうだ。むーん、ちょっとくやしい。

 誰もいない楽屋でふんぞり返って弁当など食っているうちに、メンバー到着。
 コロちゃんは、発売されたばかりのカントリー・ロック満載ガイド『アメリ
カン・ルーツ・ロック』(萩原健太監修・ミュージックマガジン社刊)を持っ
ている。この本はメンバーの過半数が所有する“HKBの教科書”と呼ばれてお
り、要するに“HKB楽屋ロック喫茶”の“支店”みたいな本なんである。懐か
しいレコードがたくさん載っているが、この楽屋では全然懐かしくない“日常
的”なアイテムが多い。

 次のセッションでは何をカバーしようかなぁ……なんて話をして、本を見な
がらグラム・パーソンズやジェームズ・テイラーを聞いたりしているうちに佐
野さん到着。
 そして楽屋に入るなり、過去の曲順表を前に“本日の曲順”考えこみタイム
へと突入。

                     ****************************

 この日、関西国際空港には2人のゲストが到着した。
 ジョン・サイモンとガース・ハドソン。
 ツアー・ファイナルを飾る、超サプライズド・ゲスト!!
 翌日にリハーサルをして、3日めの最終日のステージで共演することになっ
ている。こんなビッグなひみつゲスト、みんなびっくりするだろうなぁ。

                     ****************************

 今日の佐野は、はた目から見ていてもビリビリしているのがわかる。
 緊張というよりも、頭の先からつま先まで気合いがビリビリと詰まっている
ような感じ。名古屋に続いての、彼にとっては異例の同会場3日連続公演。そ
して、延期公演を除けばツアー・ファイナル。そして、ジョン・サイモンとガー
ス・ハドソンの来日。さらには、最終日にはインターネットを通してのライブ
中継とビデオ収録もおこなわれる。

 彼ほどのベテランであっても、この3日間はかつて経験したことのないビッ
グ・トライアルのはずだ。ビリビリしないほうがおかしい。

「これは、カンフル剤!!」

 佐野は曲順をメモ用紙に書き終えると、それをHKBに向かってふりかざし
て見せた。

 うわぁ。
 飛びのくメンバー。
 ここで再び、かつてない大波乱。前半と後半の流れが、それぞれグリグリに
シェイクされてしまっている。

「いい曲順は、裏からみても表からみても完璧なはず」

 と、佐野がよくわからないことを言う。
 コロちゃんが「つまりI Love Youを裏から見るとYou Love Meってことです
ね」と、これまたよくわからないことを答える。
 でも、佐野は「そうなんだ」とニッコリ。

 KYONがピアニカ、コロちゃんがギターを持ってきた。
 5月にリリースされるジョン・サイモンのニューアルバムのために、彼の曲
に佐野が詞を書いた「SO GOES THE SONG」。最終日には、ジョン・サイモンを
迎えてステージ上で初披露されることになっている。明日に向けて、今日は3
人で“予習”というわけ。

                     ****************************

「こんばんは、大阪」
 という、佐野の言葉から始まった大阪1日め。

 ウォーミング・アップの「僕は大人になった」からスタートだ。メンバー間
で火花が飛びかう、いきなり本気のソロ勝負に客席が沸く。

 しかし、本気の勝負になるのはワケがある。この曲は、いつもライブ終盤や
アンコールで演奏されてきた。それで長年の習慣というかクセというか、この
曲になると彼らは思いっきり全力疾走してしまうのだそうだ。それが1曲めだ
ということがわかっていても、ついつい身体のほうが先に反応して全力を出し
きってしまう……らしい。
 とはいえ、彼らの性格からすると、どんどん失速していくライブなんて許せ
るはずがない。ということで、この曲からスタートするライブは“地獄の勝負”
になるらしい。

 わかっていながらも、こうして今夜も「僕は大人になった」から始めてしま
うのだから。ね。

 前半の“The Barnコーナー”をしめくくったのは「ヤング・フォーエバー」。

 このツアー、ほとんどのステージでオープニング・ナンバーとして演奏され
てきた曲だ。この曲のイントロは、いわばスタート地点における“ヨーイドン”
の合図だった。しかし、この日は“ヨーイドン”の曲が、ゴールの紙テープへ
と替わった。

 泥と埃の匂いがする70年代ロックテイストの「7日じゃ足りない」。同じフ
レーズを口ずさむことで、HKBが体験したウッドストックの“魔法”を観客も
わかちあう「ロックンロール・ハート」。優しい気持ちに包みこまれる「どこ
にでもいる娘」。『The Barn』の見せてくれるさまざまな光景がロード・ムー
ビーのように次々とあらわれ、ドラマは最後の場面「ヤング・フォーエバー」
で最高潮に迎える。

 いい曲順は、裏から見ても表から見ても……。

 さっき佐野が言ったのは、こういう意味だったのかもしれない!!

                     ****************************

「そうだ、ここは大阪なんだ!!」

 突然、あらためて思い出したのは終盤近く。
 「そこにいてくれてありがとう」で観客が♪ラーララーのコーラスに加わっ
た瞬間のことだった。

 ♪ラーララーのコーラスに合わせて、客席が左右に揺れていた。誰もがメロ
ディに合わせて、片手を上にかざして左右に振っていた。

 前にこの光景を見たのは、96年12月の“フルーツ・パンチ”公演だった。

 この曲の、同じくコーラス・パートになった瞬間。サンディ&メロディ・セ
クストン姉妹が見せる振りつけを、大阪の観客は誰からともなくあちこちで真
似し始めた。そんな現象が起こったのは、ツアー中で大阪公演だけだった。

 そして今回もまた、ここ大阪フェスだけでの出来事だった。

 なんか、不思議。でも、いいなぁ。これが、大阪のお客さんなんだ。言葉に
は出さずとも、それは大阪のファンと佐野とがずっと約束していた“あいさつ”
だったのかもしれない。
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■SO GOES THE SONG(3月28日・大阪フェスティバルホール)---------------

 昨日も終演後にチラッと顔を見せたジョン・サイモンと、昨日は時差ボケで
バタンキューだったというガース・ハドソンがやってくる。ウッドストック・
レコーディングから半年以上経っているのに、全然久しぶりという感じがしな
いのは不思議。会ったとたんに時間がキューッと元に戻っていくよう。
 しばし楽屋でなごみつつ、トミーに2人めの子供が生まれたことを報告した
り、レコーディングが終わったばかりのジョンの新作を聞きながら盛り上がっ
たり……。

 そして、いよいよ翌日に向けてのリハーサル開始。
 ステージには佐野、HKB、ジョン。
 ステージ中央の椅子に佐野が座り、ジョンが上手側にセットされたウーリッ
ツァーに向かう。この曲をみんなで演奏するのは初めて。けれど“せーの!!”
の合図で始まるわけでもなく。誰かが何となく音を出し始め、他のメンバーが
少しずつ音を確かめながら加わっていく……というセッションふうの演奏を続
けながら、少しずつサウンドが決まっていく。

 ピアノを弾きながらジョン・サイモンが「ユタ、そういう感じよりも……」
とだけ言ったところで、小田原が「ちょっと強すぎた?」とジョンのほうを伺
いながらビートを変える。
 それを見て、ジョンはにっこりうなずいて演奏を続ける。

 あるいはジョンが、トミーのほうを向いて「トミー、えーっと」と何か言い
かける。彼の意図を察したトミーが「こんな感じ?」と、ワンフレーズを弾い
てみせる。ジョンは「そう!!」とうなずきながらピアノで応える。

 ジョンが、佐野のほうをすっと指さす。佐野が彼のほうを見ながら、ふたり
のハーモニー・パートを歌い始める。ゆるやかなメロディがきれいに調和して
いくのを確かめ、佐野もジョンも歌いながらうれしそうに顔を見合わせて笑顔
になる。

 リラックス、リラックス。
 ウッドストックで、ジョンが何度も繰り返していた言葉を思い出す。そして、
ジョンと顔を見合わせた時の佐野は、ツアー中でいちばんリラックスした表情
を見せた。わたしは、そんな気がした。

 ジョン・サイモンは、ゲストというよりもプロデューサーとして“The
Barn”ツアーの終わりを見届けにきたのかもしれない。

 ゆったりと穏やかに、リラックスした時間が流れていく。けれど、ジョンが
ふっと何かを言うたびに、時間のリズムやスピードや輪郭が少しずつ変化する。
そして、確実にひとつの音楽が作り上げられていく。この光景、なんだか懐か
しいような……。

 あらっ、これってデ・ジャヴみたいな感覚!?

 そう。その光景は、まさに昨年8月のベアズヴィル・スタジオ“The Barn”
のようだった。どれだけ言葉で説明しても語り尽くせない、あのレコーディン
グ中に流れていた空気や匂い。それが、このステージにジョン・サイモンが加
わることで鮮やかに再現された。

「そうそう、オレもステージでウッドストックの感覚がよみがえったよ」

 と、後でトミーも言っていた。

 続いて、ガース・ハドソンが加わっての「7日じゃ足りない」。
 ローディーから渡されたKYONのアコーディオンを抱えるガース。アコーディ
オンが小さく見える。なにげなく試し弾きをしている姿さえバシッとカッコい
い!
 ガースがザ・バンドで聞かせたサウンドへのオマージュをこめて、HKBが作
り上げたフレーズ。それを、ガース自身が弾く。KYONが、いつもは自分が弾い
ているメロディを奏でるガースの方をうれしそうに見ている。

 佐野とHKBと、ジョンとガース。8人が同じステージに立っていることが、
ものすごく自然に感じられる。まるで、この全員で“The Hobo King Band”の
よう。

「ウッドストックのフィルムの中でKYONさんが言ってた“みんな大先輩だけど、
大きな意味で考えれば同じ音楽の歴史の中の仲間だ”って、こういうことだっ
たんだね」

 リハーサルを見ながら、なべマネが言った。彼はウッドストック・レコーディ
ングに参加できなかったから、今日はじめてこういう光景を生で見たわけだ。
 そうなの、そうなの。これをみんなに見せたかった。
 百聞は一見にしかず。ビデオでもわからなかった、この感じ。明日の本番で
は会場のお客さんたちもみんな、なべマネと同じことを感じるだろう。

                     ****************************

 リハーサル後、ガースは「部屋で何か食べてくる」と言って帰ってしまった。
実際は時差ボケで眠かったらしいのだが、なんとなく動作ひとつひとつが“セ
ンパイテイスト”。なんと、ドーナツが大好物というところまでそっくり。ジョ
ンも「アキラとガースは似ている」と太鼓判。ということで、これからガース
をひそかに「大センパイ」と呼ぶことにする。

 ジョンには、この日のステージを観てもらうことになる。ジョンの日本での
マネージメントに関わる長門芳郎さんが「特等席、ロイヤル・シートだって」
と言いながらチケットを渡すと、ジョンは「ちょっと部屋に戻って、タキシー
ドに着替えてこなくちゃ」とふざけて周りを笑わせる。

 開演前。メンバーが着替えをしている間、楽屋の廊下でジョンさんと立ち話。

ジ「彼らは、とてもいいツアーを続けてきたんじゃないかって気がするよ」
ノ「そです。彼らはジョンさんがライブを観る日がやて来ることをずーと楽し
みにしてきたのだったであろうですか」
ジ「私もとても楽しみにしていたよ」
ノ「ステージは、毎回だんだんよくなっています。今いちばんよいでしょう」
ジ「いいことだね。きっと彼らは日々練習! 練習! 練習! なんだろう?」
ノ「そのとおりですのね。でも、ジョンさんは『The Barn』の曲聞いてびくり
するかもしれません」
ジ「アレンジが大きく変わっていたり?」
ノ「なーぜわかるですか!?」

 プロデューサーは何でもお見通しだ。

 そして、いよいよ開演。

 KYONが「これは僕のお守り」と、衣装と一緒につるしてあるカードをジョン
に見せる。かつてドクター・ジョンに貰ったサイン。んー、クールなKYONも、
ガースとのセッションに気合い入りまくりの様子。

 ステージに向かう面々を、ジョンと共にお見送りする。

「ジョンさんが見ていると思うと、なぁんか父兄参観みたいな気分だなぁ。あー、
緊張する」

 と、佐野さん。
 で、それを英語で説明しようとするも「父兄参観って英語で何て言うんだっ
け?わかんない? えーっと、じゃあ“ピアノの発表会”みたいだ」
 そして、ジョンさんに「ピアノ・リサイタルーッ!!」と元気に言い残すと、
足早に姿を消した佐野元春さんであった。

「ピアノ・リサイタル??????」 ジョン・サイモンの頭上には、無数の
“?”が……。

 間違いではないが、アメリカ人にはわからないニュアンスだと思うなぁ……。

                     ****************************

 昨日に続いて、今日の佐野も、会場入りした時からビリビリと緊張感を漂わ
せていた。全身から静電気が起こりそうなくらい、ビリビリしていた。けれど、
その緊張感はネガティブなものではなかった。表面張力ギリギリまで盛り上が
った、ものすごくいい感じの“爆発寸前”状態。

 今日の1曲めも「僕は大人になった」。
 佐野のテンションの高みへと、最初からバンドも勢いよく引っ張りあげられ
ている。KYONのマンドリがド派手に炸裂する。続く「君を探している」では、
佐橋がステージの反対側まで疾走してパワフルなソロを弾きまくる。
 The Hobo King Bandがどんなに凄いバンドかということは、しつこいくらい
書き続けてきたけれど。やっぱり、その本当の凄みは彼らだけでは成立しない。
メンバー5人が、佐野元春を中心に回りだす。
 その関係が成立してこそ、バンドも佐野も“完璧”になる。

「今夜は素晴らしいゲストを紹介したいんだ」
 中盤の“The Barn”をしめくくるMCで佐野が言った。開演後に着席したジ
ョンに、まだ観客は気づいていない。“?”のざわめきが広がる。

「『The Barn』のプロデューサー!」
 佐野がそこまで言った時、客席が歓声に包まれた。ジョン・サイモンの名前
が紹介され、客席中央に座ったジョンにスポットライトがあたった。

 立ち上がって、にこやかに手をあげるジョン・サイモン。
 昨日買ったという阪神タイガースの野球帽がチャーミング。大阪のファンに
対してのサービス精神、こういった細かい気配りをさりげなーくユーモラスに
やってのけるところにもジョンのプロデューサーとしての一面がうかがえる。

 そして、そのジョンとのレコーディングの思い出がつまった「ロックンロー
ル・ハート」が演奏される。
♪Rockin' to my Rock'n Roll Heart〜

 客席のコーラスも、この日はひときわ元気がよかったのでは?
 なんだか、ものすごーくうれしくなった。
「このツアーをジョン・サイモンに見てもらいたいな」と佐野が言っていたの
は、自分たちの演奏を見てもらいたい……ということだけではなかった。おそ
らく、ウッドストックの小さなスタジオで一緒に作った曲たちをリスナーと共
有する瞬間を見てもらいたい……という気持ちもあったのだろう。

「Thank You,John」

 歌い終わった後、佐野は言った。
 そこには、いろんな意味の“Thank you”がこめられていた。

                     ****************************

 後半は「約束の橋」からスタートする、元春クラシックス。んー、でも、も
しかしたらツアーの始まりに使っていた“クラシックス”という言葉は、ツアー
の間に意味ナシになってきてしまったかも。

「約束の橋」も「ダウンタウン・ボーイ」も「悲しきレディオ」も、もはや
“クラシックス”じゃない。『The Barn』に連なる、佐野元春の書いた楽曲の
ひとつに過ぎない。ある部分では『The Barn』は過去を超え、またある部分で
は過去の楽曲が今なお他のどんな新曲をも超えられない強さを守り続けている。

 このツアーが始まった頃、ニール・ヤングがパール・ジャムをバックに従え
たコンサートを観た時のことを思い出した。新しい面々と共に演奏される“ク
ラシックス”の数々と、当時の最新アルバム『ミラーボール』の楽曲があまり
にも自然に連なっていることに感動したことを思い出したのだった。
 パール・ジャムにとって、過去の楽曲が“クラシックス”ではないように。HKB
にとっても、過去の楽曲は“思い出”じゃない。

 そこが大事なんだなぁ。ツアーも終わりにさしかかって、あらためて実感。

                     ****************************

「この街で初めて演奏したのは16年前。まだみんな生まれてない頃だ。……そ
んなことないだろうけど(←客席“ドッ(^O^)”)。僕が何を言おうとしてい
るかというと……“また佐野はステージの上で頭がおかしくなってるんじゃな
いか”と思ってるんだろ(←客席、再び“ドッ(^O^)”)。そーゆーことじゃ
ない。僕は成長についての話をしているんだ。これは、成長の歌だ」

 あああー。佐野さん、またスベってますぅー(^O^)。
今日はいつもより多めにスベってますぅー。

 でも、これはテンション上がりまくりの証拠。今日の佐野元春、いい感じで
コワれてます。開演前のナーバスさが、ステージ上でネガティブな影響として
残ることもある。けれど、この日も開演前はかなりナーバスな表情を見せてい
たものの、それがポジティブな緊張感へと転化したように思えた。

 なんと、そんなおもろいMCの後で歌い始めたのが「サムデイ」!
 しかし、その「サムデイ」の美しかったこと。思い出の歌でもなく、もしか
したら彼の言うように“成長の歌”でもなく。その場所に、ただポツンと存在
している美しい曲。

 なぁぜか、涙が出た。

 悲しいからなのか嬉しいからなのか、わからないけど。なぁんか、涙が出た。
「サムデイ」という曲が今は“儀式の歌”ではなく、ただひとつの歌として解
放されたこと。それがうれしかったのかな。自分でもよくわからない。

 以前、みんなが最後の曲を演奏しようとスタンバイしているなか、佐野がひ
とりで走ってステージを去ってしまったことがあった。理由は「もう体力の限
界だったから」。

 しかし、今日は逆だった。本編が終わった後、みんなが楽器を置いて歩き出
そうとしているのに……佐野はひとりギターを手放そうとしなかった。
 彼がもう1曲歌いたがっていることに気づいたメンバーが、もういちど戻っ
てくる。
「もう1曲行こう!」と、佐野の合図で「ポップ・チルドレン」が始まった。
まさにボーナス・トラックだったなぁ。

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■ROCK'N ROLL HEART(3月29日・大阪フェスティバルホール)-------------

 いよいよ、大阪ファイナル。
 ビデオ収録やインターネット中継のスタッフも入り、ジョンとガースも別楽
屋にスタンバイ。バックステージも、グッと人数がふえて慌ただしい雰囲気が
漂っている。

 ノージ、メンバーよりうーんと遅れて会場入り。なぜかというと、KYON妻マ
ユミちゃんと2人で“早めの打ち上げ”と称して朝6時まで盛り上がっていた
から(涙)。

 リハーサルを終えた佐野が、汗びっしょりになって戻ってきた。
 Tシャツ半脱ぎ状態になりながら楽屋に入ってきつつ、何を言い出すかと思
えば……。

「あたしゃねぇ、やりますよ。今日は」

 いきなり“あたしゃ”ですよ。みなさん。びえー。
 大変です、江戸っ子になってます。
 で。彼が江戸っ子になる時ってぇのは「無敵」の証拠なんですよ。
 どーする!? おまイさん。

                     ****************************

 うわぁぁぁ。

 ずーっと、そんな。目をみはりっぱなし。
 もう、なんと言ってよいものやら。

 The Hobo King Band、遂に本日をもって見事ゴール地点に着地。

 全員がひとつのゴール地点に向かって、スタートから一気に駆け抜けた“フ
ルーツ・ツアー”。それに比べると、今回のツアーは蛇行しまくり凸凹しまく
りの旅だった。

 わたしは全国のツアーをレポートする、いわばカーナビの役割を果たさなけ
ればならなかったにも関わらず。彼らが今どこにいて、どこに向かおうとして
いるのか……まったく予測がつかない時期が何度もあった。

 右へ向かうかと思うと、急に左へと曲がる。上昇していくかと思えば、ズド
ンと落ちる。
 正直なところ、このツアーには“ゴール”はないのかもしれない……と思っ
たこともある。
 決して悲観的な意味ではないけれど。次に向かうまでの、これはひとつの
“経過”を示すためのツアーなのかもしれないと思う時があった。

 映画でいうと『ゴッド・ファーザー』も『スター・ウォーズ』も『バック・
トゥ・ザ・フューチャー』も、それぞれ2作めが結果的には“経過”の役割を
果たす作品になっていたように。この2度の全国ツアーも、数々の伏線
と課題を残しつつ“経過”になる可能性はあったと思う。

 ところが、この大阪3日め。複雑に曲がりくねった道を抜けきった場所を抜
けきって、突然目の前に広々とした景色があらわれた。

 これまでのこと、将来のこと。何も関係なく、ただひたすらに全員がベスト
を尽くす。お互いを気づかう余裕さえ見せずに、ひたすら自らの力をさらけだ
す。しかし、それなのにバンドは無意識のうちに複雑に絡まりあい、がっちり
と結びつくことで強靱なグルーヴを生み出していく。

 無我夢中になりながらも、お互いの演奏をカラダで受け止める。そんな“本
能”が、このバンドにはいつの間にか備わってきたようだ。

 そのステージごとに“MVP”がいると、以前に書いた。けれど、この日は全
員がMVPだった。大袈裟に言ってしまえば、この6人が出会った本当の理由が
わかった気がした。もしかしたら、観ている側だけではなく演奏している6人
も“本当の理由”をカラダで確かめながらステージに立っていたのかもしれな
い。

 このツアー中、いつも新しいことが起こり続けてきた。でも、この日は“新
しいこと”は何もなかった。いつもどおりのことばかり。
 とはいえ。彼らは“いつもどおりのこと”を、力いっぱいやり尽くすことに
よって“ものすごいこと”に変えてみせた。日常を、新しい光景として見せて
くれた。今まで見えなかった部分に光が当たって、はっきりとディテールまで
が見えて驚かされた。

                     ****************************

「大阪の人たちに、ぜひ紹介したい人がいる」

 中盤、佐野の紹介でジョン・サイモンがステージに登場した。歓迎と敬愛の
気持ちのこめられた、長い長い拍手が続くなか、昨日と同じ野球帽をかぶった
ジョンはカメラをとりだした。

 客席に向かって、「OK、にぃーッ」と言ってシャッターを押す。

 あたたかい笑いがわきおこり、客席がフワーッとリラックスしていくのがわ
かる。
 ジョンは緊張した空間を居心地よく変える天才だ。それはつまり、プロデュー
サーとしての彼の天性の資質でもある。初めて訪れた大阪フェスティバル・ホー
ルでも、たちまち多くの観客をなごませてしまうユーモア。ちょっとした仕草で、
彼は魔法をかける。

「ぼくを日本に呼んでくれて、おおきに」

 ウッドストックでもジョンは、日本語を覚えては書いこんだメモを持ち歩い
ていたことを思い出した。最後には、センパイに向かって「キサーン」(←セ
ンパイの口ぐせ)とまで言っていたもの……。

「モト、あなたは心づかいの美しい人です。そしてモトさんは、大切な友達で
す。これ以上は日本語はできません」

 そして、ジョンのピアノとボーカルをフィーチャーした新曲「So Goes The
 Song」が始まった。5月にリリースされるジョンの新作『HOME』に収録
される、佐野が作詞を手がけたナンバー。ブルーアイド・ソウルふうのおだや
かな調べと、ほのかなオリエンタル・フレーバーが心地よい。

 KYONのピアニカと佐橋のアコースティック・ギターを中心に、HKBもジョン
のほうを見ながら気持ちよさげに演奏に加わる。曲に合わせてパラパラと聞こ
えてくる客席の手拍子を、佐野は唇に人差し指をあててそっと制する。

 ツアー・パンフレットにある、わたしの書いた“ウッドストック日記”を読
んでくれた人は知っていると思うけれど。
 レコーディングが終わった夜、“The Barn”スタジオでジョンをまじえたジ
ャム・セッションを楽しんだ。この日の演奏を聞きながら、あの夜の空気や匂
いや気持ちを思い出していた。ジョンが加わることで、HKBはリラックスしな
がらも、いちばんポジティブな方法で思いがけない力を発揮する。

 さらに。
「大阪のみんなを喜ばせたいことが、もうひとつある!」
 ジョンは昨日も紹介されたが、ガースが来日していることは誰も知らない。
佐野がガースの名前を告げた瞬間、客席からはすさまじい驚きの声があがった。

 いかつい体型と優しい笑顔、アコーディオンを抱えたガースが登場。

 曲はもちろん「7日じゃ足りない」。
 KYONが興味深げにガースのプレイを見ている、その隣にあるキーボードの前
にはジョン。ジョンもタンバリンを叩きながら楽しげに、セッションを見守っ
ている。

 続いては、ガースがひとりでピアノの即興演奏を聞かせる。
 ひとつの壮大な物語を聞いているように、表情豊かなプレイに息をのむ。観
客だけでなく、ステージ上の面々もすっかりお客さんの顔になってガースのほ
うを向いて聞き入っている。実際には5分半ほどの演奏だったというが、とて
もとても長い時間だったように感じられた。

 このピアノ・プレイに続いて始まったのは、「ロックンロール・ハート」。
 ジョンとガースが加わっての8人がステージ上に立つ光景は、まさに「ロッ
クンロール・ハート」の歌詞そのもの。たまたま縁あって集まったミュージシ
ャンたちが、まるでずーっと昔からの仲間だったかのように演奏を楽しんでい
る。
 歴史に残るミュージシャンたちと、ごく自然に肩を並べている佐野とHKB
が誇らしく思えた。そして昨日なべマネが言っていたように、彼らが“同じ音
楽の世界の仲間”であることを理屈抜きに納得させてくれた。

 いつまでも鳴りやまない拍手のなか、ジョンとガースはステージを去った。

「あの2人がいなくなったら、急に淋しくなっちゃったね」
 隣で見ていたマユミちゃんが耳元でささやく。
 確かに、そのとおり。6人だけのステージがアタリマエのはずなのに、ジョ
ンとガースがいなくなったら妙に淋しくなってしまった。

 ふとマユミちゃんのほうを見ると、涙でグズグズになっていた。もちろん、
わたしもグズグズであった。次の曲「約束の橋」が威勢よく始まっても、2人
ともティッシュで涙とか鼻水をふいてズルズルであった。

 終演後、佐野が「今日は、ジョンとガースが魔法をくれたね」と言った。

「僕は魔法なんて信じない」

 アルバム・インタビューでは、そんなふうに言い切っていたけれど。単なる
ラッキー・チャンスの魔法は信じなくても、ずっと音楽を信じ続けてきた人間
のなかからわきおこる魔法なら信じられる。わたしはそうだし。佐野もきっと、
そうなんだと思う。

 ジョンとガースがいなくなった後も、彼らの魔法は威力を残し続けた。

 なんで? なんでみんな、そんなにすごいの?
 もう、やだー。たすけてー。

「今日は佐橋がキレましたー」だの「今日は佐野がコワれましたー」だの、ツ
アー中ずっと好き勝手に客観的な分析をしてきたわたしを許してください。
 今日は、ノージがこわれましたぁ。

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 アンコールでは、再びジョンとガースが登場。
 なんと「僕は大人になった」セッションに、彼らがジョインした。
 ふだん6人で演奏している時でも、すさまじい“おしゃべり”が炸裂する曲
なのに。ここにガースのアコーディオンやジョンのピアノが加わったら、もう
大変。

「ジョンやガースは、この曲をあまりよく知らない。だから、これは僕たちの
演奏を彼らに“見せる”。そんな気持ちでやろう」

 前日のリハーサル、佐野は確かそんなことをメンバーに告げていた。
 しかし、しかし。
 目の前で白熱のセッションが繰り広げられているのを見たら、ミュージシャ
ンなら黙って見ているほうが辛い……というのは、HKBもよく知っているはず。
8人総がかりで繰り広げられた、壮絶なスピーク・アウト!!

 ジョンとガース、HKBに入ってくんないかなぁ。
 一瞬、真剣に考えてしまったわたくしでした。

                     ****************************

 もじもじ。
 終演後、いろんなゲストに囲まれてなごやかな談笑が続いている楽屋。
 わたしは、なんだか照れくさくて入りづらい気分になっていた。
 なんかね、お祭りに行ったら、近所のお兄さんが御輿をかついでて、それが
ふだんは見たことないよーなカッコよさだったので、次の日会ったらモジモジ
しちゃった。そーゆー気持ちです。わかる? わかんない? むつかしいたと
えでしたかね?

 佐野に「やりましたねっ(^^)v」と言うと、「やったな」とニッコリ。

 誰と目が合っても、ニンマリするばかり。
 ライブが終わった後に、なぁんにも言葉なんか出てこない状態がいちばん
“天国”だってこと。わたしが、これまで経験した3つのツアーで学んだこと。

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 その夜、ゲストもまじえてお好み焼き屋で打ち上げがおこなわれた。『ワン
・フォー・ザ・ロード』の山本智志センパイ、そしてウッドストックでのスー
パー・コーディネーター安武真佐子センパイ(←彼女は、ホントにコロちゃん
の高校のセンパイ)も東京から駆けつけて、“The Barnプロジェクト”の登場
人物が一同に揃ってファイナルをお祝いする……といううれしいパーティになっ
た。

 疲れているけれど、佐野もうれしそうだ。

「フルーツ・ツアーのファイナルは、体力勝負の“トライアスロン”をやり抜
いた充実感があったけど。今回はもうちょっと違う感じ。もっと音楽的な意味
で、いちばん充実したステージができたっていう達成感があるよな」

 上へ上へと昇っていくというよりも、“The Barn”ツアーというのはアルバ
ム・レコーディングで手にいれたものを、深く深く掘り下げていく作業のほう
がメインだったのかもしれない。

 そして今夜、彼らはいちばん深い場所まで到達した。

 そして、そこにスタート地点にいたジョン・サイモンやガース・ハドソンが
待っていた。コジツケかも知れないけど、素敵なストーリーじゃない?

 ツアー初日に佐野が言っていた、「これから、いろんなストーリーが見えて
くるはず」と。
 それがどんなストーリーなのか、まったく想像がつかなかったけれど。最後
の最後になって、初日からここまでの物語の全貌がやっと見えた。

 ものすごい物語を読んでいたんだなぁ……と、最後のページでやっと気づい
たような。

「水泳でね、全員一斉にスタート地点からクロールで泳き始める……。それぞ
れのコースをまっすぐに、全力でね。そういう映像が見えた。今日、初めて見
えました」

 打ち上げも終わりに近づいた頃、ほどよく酩酊ぎみのKYONが言った。
 隣で佐野がうなずいていた。何も言わずに、何度もゆっくりとうなずいてい
た。

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■メールください---------------------------------------------------------

 とは言え、まだまだ終わりじゃないのよ。
 2本限りのスペシャル・ツアー!? 渋谷公会堂と神奈川県民ホールが待って
いる!!

 そして。たいへん長らくお待たせしました。STTバックナンバーのページが、
遂に完成。もちろんオレが作ったんじゃないよ、MIPSさんが作ったんだよ。と
りあえず、STT継続中は登録会員限定ページということにしたいのでヨロシク
ね。

[STTバックナンバー・ページ]
http://www.moto.co.jp/TheBARN/nohji/BackNumbers/

 これまでも、いろんな人にコピーしてSTTを自主配布してくださった方々は
多いようなのですが。たくさんの人に読んでもらえることはうれしいものの、
いちお無料メールとはいえ“著作物”だからね。本当はあんまり、我々ノージ
や佐野さんサイドとしては賛成できないことなのです。メールの最後にも、佐
野さんの事務所とノージの(c)マークがついてるでしょ。よく言われているネッ
ト上の著作権について、ちょびっと考慮してもらえるとうれしいです。なにと
ぞ。

 というわけで、あとひと息。STTも、あとひと息。

By 能地祐子
    from Nohji's Rock'n Roll Shop
   (http://www.DaDooRonRon.com)


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