◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ MIPS PRESENTS ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ノージのSmall Town Talk ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ 佐野元春 and The Hobo King Band ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ 〜 THE BARN TOUR'98 Newsletter 〜 ◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ Vol.8 <1998.3.24> ======================================================================= ★ノージからのごあいさつ★ いよいよThe Barnツアーもラスト・スパート。今日から東京・渋谷公会堂2 デイズ、続いて大阪3デイズ。ということで、今回は佐野さんのバースデイ・ ライブから始まった名古屋3デイズの模様をお伝えします。 STTも、いよいよ8号め。このぶんだと、ファイナルまで10号はいけそう(^.^)。 ノージはノージなりに、浮いたり沈んだり。そして、もちろんツアー全体も 浮いたり沈んだりを繰り返しつつ前に進んできました。 名古屋公演の後、佐野さんが言いました。 「本当は、どこでも最高のステージを演れればいいんだけど。確かに、浮き沈 みはある。ただ、このバンドは沈んでいる瞬間とのつきあい方もすごくうまい んだ」 そう、そこがすごいの。こんなことを書くとガッカリしちゃう人もいるかも しれないけど。終演後に佐野さんが楽屋でガックリと落ち込んでいる時でも、 観客としてのわたしは「今日はなんだか得しちゃったなぁ」とウキウキしてし まう日があったりする。思いがけないドラマを目撃できたりするからねっ。 ものすごいバンドです、The Hobo King Band。 何を今さらと思うかもしれないけど、しみじみ思います。 この6人でしかできない旅を、彼らは続けています。 (3月23日) ======================================================================= ■ CONTENTS ----------------------------------------------------------- ■ Happy Birthday,MOTO!!(3月13日・名古屋市民会館) ■ SOMEDAY……(3月14日・名古屋市民会館) ■ HEAT UP(3月15日・名古屋市民会館) ■ 楽屋中継・名場面フラーッシュ!! ■ メールください ----------------------------------------------------------------------- ■ Happy Birthday,MOTO!!(3月13日・名古屋市民会館)------------------- [お断り:実はこれ、書いているうちに初日のレポートというよりも名古屋3 デイズで感じた勝手な感想文になってしまいました。ま、興奮した友達からの メールだと思って読んだってください] トミーの渋いベース・ソロから始まる「ドクター」。 この曲を聞きながら、ふと、これは現在の佐野だからこそここまでカッコい い曲に仕上がったのだろうなと確信した。 彼が今日、42歳の誕生日を迎えたことが記憶のどこかにひっかかっていたせ いかもしれないけれど……。 彼が『The Barn』プロジェクトでやろうとしていることは、その年齢の肉体 と精神で表現しうる可能性の追求……なのかも知れない。と思った。 80年代はじめ、つまり『サムデイ』の頃の佐野のライブ映像を久々に見た。 そう、あの頃の佐野元春はこんな風だった……と思い出した。 ちょうど最近の彼がステージで着ているようなシャイニーなスーツ姿で、20 代の佐野はステージを走り回っていた。声は今よりもちょっと甲高く、どんな 瞬間にも攻撃的な目をしている。あの時代、こんなにも完璧にクールなロック ンロール・スターはいなかった。 その後、数えきれないほどの佐野元春フォロワーが生まれたけれど。誰ひと り、彼を超えることはできなかった。そしてもちろん、今の佐野元春だって80 年代の佐野元春みたいには歌えないはずだ。 でも、あの頃の佐野元春が“The Barnツアー”を見たら……。きっと、羨望 で身震いするに違いない。今なお攻撃的であることを忘れずに、けれど同時に、 すべての痛みを包み込む優しさに満ちていて。安息に辿りついてはいないけれ ど、ガムシャラに焦りすぎることもない。 10代の頃に20代の佐野元春に出会って、それからずっと長いこと彼の聞き手 であり続けてきた。それはわたしの誇りでもあるけれど、この日、その事実よ りも大切なことを発見した。 それは、わたしはただ“あの頃”の延長線上で佐野を見ているわけではない ということ。たぶん、どこか……おそらくザ・ハートランドが解散した瞬間ま で、わたしは『バック・トゥ・ザ・ストリート』の延長線上で佐野元春をとら えていたと思う。だって、ハートランドの解散ライブの時に、わたしの青春は 終わったわとさめざめ泣きましたから。 でも、今のわたしが興味を抱いているのは『フルーツ』からの佐野元春。 あの時はこうだったとか、そんなことを考えているヒマもなくて。リアルタ イムで、その瞬間その瞬間の佐野に魅かれているような気がしている。 20代の佐野に、こんなにシビれる「ドクター」は歌えないだろうと思う。 でも、それだけじゃない。当時の楽曲だった「ガラスのジェネレーション」 さえも、彼は歌うことができる。「僕は大人になった」は、演奏するたびにど んどん“大人度”を増していく。佐野がずっと歌い続けてくれてよかった、そ して彼と一緒に時代をくぐり抜けてくることができてよかった。ものすごく素 直な気持ちで、そう思える。 会場に向かう車の中で、The Hobo King Bandのメンバーがコソコソと相談を している。「ガラスのジェネレーション」のアレンジについて。イントロをニ ック・ロウの「クルエル・トゥ・ビー・カインド」ふうにしてみよう、間奏で はアコースティック・ギター2本をうんと歪ませたサウンドを作ってみよう… …アイディアが次々と生まれる。 あの頃とは違う、今の佐野元春にしかできない輝きをもって聞こえてくる「 ガラスのジェネレーション」。なんだか、新しい曲を聞く時のような興奮に包 まれてしまう。The Hobo King Bandの連中は、かつての佐野の音楽についてめ ちゃくちゃ詳しいというわけではない。けれど、いつでも誰よりも佐野を“わ かっている”ように見える。それはたぶん、今の佐野元春に似合う音を知って いるからだと思う。 バンドの面々は、時には佐野のスタイリストになって、彼にいちばん似合う 服をあれこれ着せてみる。そして、時には佐野がメンバーのためのスタイリス トになる。そんなやりとりの中で、それぞれが自分では気づかなかった新しい スタイルを発見したり……。相手がいちばん欲しているツボを見つけてギュッ と押すマッサージ師、とたとえることもできるだろう。 ツアーが始まる前、佐野は1曲でも多くの新曲を作りたいと言っていた。け れど、必ずしも新しい曲だけがバンドを前進させるわけではない。 「みんな、佐野さんの曲を演りたくて集まっているんだから」 と、佐橋は言った。 そう言えば。フルーツ・ツアーの時よりも、古い曲と新曲の境界線があいま いになってきているような気がする。 『The Barn』は、これまでの作品の中でも異色作だと思っていたけれど。ソン グライターとしての佐野元春を中心にして考えると、すべてをひとつの線とし て結ぶ役割を果たしている作品なのかもしれない。本当に不思議なことだけど。 佐野とThe Hobo King Bandが、98年の佐野元春にぴったりのサイズに古い服 を仕立て直しているから? 新しいシャツもいいけれど、お気に入りの服は仕立て直してでも着て欲しい。 そういえば、行きの新幹線の中でなべマネが「久しぶりに『SOMEDAY』聞い たら、どっか『The Barn』とすごく似ているんだよ」と言った。「どこが?」 と聞いたら「うーん、わからないけど。なんか、オレはそんな気がした」とし か答えてくれなかったけど。 なんとなく、わかるような気がする。 時代との向かい合いかた、あるいは佐野の彼自身との向かい合いかた。どこ となく、同じシルエットを映し出している。どことなく、同じ温度を感じさせ る。 そして、アンコール。 客席には、有志“Sweet42 Project”(!!)によるHappy Birthdayのカード が掲げられる。アンコールの拍手に混じって、ハッピー・バースデイの大合唱。 出てきた佐野は、本当にうれしそうだった。誕生日、何かが起こることは期待 していたと思うんだけどね。 アンコール曲は、「悲しきレディオ」メドレー。“スペシャル・ボーナス” として演奏してきた「デトロイト・メドレー」のかわりに、彼は今回のツアー では初めて演奏されるこの曲を選んだ。ハッピー・バースデイへのお礼の気持 ちだったのかもしれない。 フルーツ・ツアーでは、センパイの弾くイントロがザ・ハートランドの残像 を思い出させてくれた。けれど、わたしはもうハートランドの「レイディオ」 を忘れかけている。耳に馴染んだイントロも、ハートランドではなくThe Hobo King Bandの西本明の奏でるメロディとして聞こえてくる。 そして中盤、メンバー紹介コーナー。 KYONがいつものように佐野を紹介した後、メンバーが「Happy Birthday」を 演奏。佐野がいない隙を見計らって、楽屋でこそこそ相談をしていた作戦は大 成功。そして、本番中に唯一仕事をしていないノージが、スタッフ代表の花束 嬢(“嬢”じゃねーよ)としてステージへ。佐野さん、いきなりのことに目が 点。失礼しました〜。 そして終演後。楽屋ではシャンペンとケーキで、お誕生日をお祝い……する 予定だったのだが。なんと、閉館ギリギリまでアンコールを演っちゃったもの でタイム・アウト!! お祝いは明日あらためてゆっくりと……ということで、 あわてて会場を出たのだった。 なんか、今回はライブ・レポートになっていませんけど。 42歳の佐野元春がどんなにカッコいいかを書きたかった。 なので。これをもって、わたくしからのお誕生日お祝いとさせていただきま す。 だめ? ----------------------------------------------------------------------- ■SOMEDAY……(3月14日・名古屋市民会館)------------------------------ 3月14日。 会場に入ったとたん、佐野がテーブルの上に置かれたメモ用紙に勢いよく何 かを書き始めた。曲順のようだ。いつもは過去のライブの曲目リストのファイ ルを眺めながら考えているのに、今日はすでに頭の中であれこれシミュレート 済みのようだ。書き終えると、それを持って自らスタッフ・ルームへと走って 行ってしまった。 そして5分後。 「はい、今日の曲順表」 戻ってくると、乱暴な字で書きなぐった手書きの曲順表(いつもはマネージ ャーがワープロで打ち直したものを配るのに)のコピーを、メンバーひとりひ とりに手渡す。 「わぁ」 みんな、驚く。驚くけど、うれしそう。 なぜって、このツアー始まって以来の大波乱の曲順大変更。 佐野元春。お誕生日を迎えて“ニュー元春”に変身か!? ツアー後半戦が始まるにあたって、わたしが待ち望んでいた“X-day”。そ れは思っていたよりも、ずっと早く訪れた。 何を思って、彼がこんなふうに構成をバラバラに崩したのかはわからない。 けれど、佐野の中で何かが終わって何かが始まった。あるいは、何か決意が生 まれた。 絶対そうに違いないと思った。 The Hobo King Bandの面々も、同じように感じていた。いつもより真摯な表 情で、いつもより緊張した面持ちで入念なリハーサルに臨む。そして、開演前 ギリギリまで佐野とのディスカッションを繰り返していた。 その変化をはっきりと確認したのは、本番のステージ上が始まってからだっ た。 この日は、誰が何と言おうと“佐野元春Day”だった。 今までの秩序をブチ壊して、けれど“The Barn”ツアーの中で育まれてきた グルーヴを存分に見せつけて、何をもって佐野元春が佐野元春であるのかをハ ッキリと思い知らせてくれた。 いつものオープニングBGM「逃亡アルマジロのテーマ」もなし。 「こんばんは、名古屋」という佐野のひと声から始まったのは、「僕は大人に なった」。いつもは終盤に、残った力を全部出しきるために使われる“余力一 掃ナンバー”。それを、佐野いわく「バンドもお客さんもウォーミング・アッ プのためにね」と、オープニングに持ってきた。これが、まず功を奏した。 名古屋市民会館は、ちょっと不思議な構造になっている。天井が高いせいか もしれないけれど、オープニングの歓声が湯気のようにモワーンとたちこめて しまう。だんだんとオーバーヒート気味の歓声があがり始めると、シャキンと するのだけれど。だから、ジワジワと盛り上がるよりは、いきなりピークに達 するような盛り上がりかたの方が合っているみたい。そんなわけで、「僕は大 人になった」から「君を探している」へと続く意表つきまくりの曲順がばっち りキマった。 前半が『The Barn』コーナー、そして後半が元春クラシックスという構成に 慣れていたわたしとしては、この夜の新旧入り交じった曲順は“お部屋の模様 替え”のような気分。曲順が変わるだけで、実に新鮮な光景が見えてくる。 そして、新鮮なのは曲順の変化のせいだけではなかった。 とにかく、佐野が違う。なんか違う。どこか違う。 今日の佐野さん、どこかヘン……とさえ思うくらいの気迫。 しかもヤミクモにスピードを上げまくっているわけではなく、クールにグル ーヴを維持しながら確実にテンションを上げ続けている。大人の穏やかさと、 向こう見ずな危険さが同居している。まさに、まさに、前日の項で書いた“42 歳の佐野元春”にしかできないカッコよさが炸裂。ドキドキ。 そう、この感じ!! 何かが違う、この微妙さが生み出す独特の空気。これまで佐野元春のライブ を見て何度か体験した、特別な空気が流れ始めているのを感じた。 中盤では「サムデイ」が演奏された。 このツアーでは、神戸公演に続いて2度め。神戸ではファンと佐野との“約 束の歌”である「サムデイ」が演奏されることを、誰もが予想していたはずだ。 けれど、ここで再び演奏されるとは思ってもいなかった。それぞれの曲が新し い力を発揮し始めた今回のツアー、以前のように「サムデイ」がとっておきの 切り札としてのパワーを見せることができるかどうか……。そんな心配もあっ た、ちょっとだけ。 けれど、この日の「サムデイ」は凄かった。 今までライブで聞いた、どの「サムデイ」よりも強烈な印象を残した。ザ・ ハートランドの解散が発表された、佐野にとって最初の武道館公演。ライブ・ ビデオとしても残っている、わたしが記憶するもっとも印象的な名演。あの時 の「サムデイ」を聞いた時に感じたゾクゾクッという衝撃。なぜか、あの時の 感覚を思い出した。 説明のつかない、理由など考えたくもない無邪気な高揚感。 こんな佐野元春を待っていた。 “The Barn”プロジェクトにおける、新たなマイルストーンが刻まれた。 「佐野さん、壊れましたね…………?(←頭を指して)」 「ちょっとね、プツンとね(←頭をチョキンのポーズ)」 終演後、わたしと佐野さんとの間で交わされた会話。立派なジャーナリスト だったら、もう少し気の効いた言葉をかけたのだろうが。いい。これでいい。 わたしの場合は、こんなレベルでしょ。 演奏の盛り上がりと観客の反応が、本当にピッタリと呼応しあっていた。そ のコミュニケーションもまた、このライブを完璧へと近づけたのだと思う。 「こういう気持ち、お客さんにもちゃんと伝わってるんだな。そう感じたよ」 帰り際、彼は言った。いつもとはどこか違う観客の反応を、佐野は自らを映 す鏡のように受け止めていたのかもしれない。 ----------------------------------------------------------------------- ■HEAT UP(3月15日・名古屋市民会館)---------------------------------- この日もまた、佐野は会場に着くなり鉛筆でタタタッと曲順を書き始めた。 「何だろう、何だろう、全曲ひっくり返しだったりして……」 楽屋の隅で、佐橋が不安におびえるポーズ。でも、顔はニンマリ笑っている。 昨日のライブを終えた今、このツアーはお待ちかねの“軌道修正不可能”への 道を進んでいくしかない状態へと突入。ツアー半ばで見せた、キッチリと完璧 に構築されたステージングは二度と見られないような気がしてきた。 となると。初日から今日まですべてのステージが再現不可能な貴重なドラマ 続きだったなぁ……なんてことを思ったり。最初の頃、毎日違ったプログラム が流れる映画館のようなツアーだと書いたけれど。もはや“映画館”という器 さえも超越している。その日によって、映画館だったりオバケ屋敷だったり銭 湯だったり……。あー、そういうメチャクチャなのが好きだなぁ。わたしとし ては。 「本日の曲順、このようになっております」 今日の佐野さん、バーテンさんになって曲順表をメンバーに渡すの巻。 コピーをもらったとたん、KYONが手を挙げて質問する。 KYON「あの、1曲めの「ズッキーニ」というのは“生ズッキーニ”ですか?」 佐野「はい、そうです」 KYON「ひえ〜」 佐野「久しぶりにアキラの“ズッキーニ!!”から始めようかと。テーマは“よ みがえれ、アキラ!!”」 アキラ「まだ生きてますぅ(泣)」 昨年の“アルマジロ日和”では、センパイの“ズッキーニ!!”というシャウ トと共に1曲めに演奏されていた「ズッキーニ」だが。このツアーでは、アン コールが終わった後のBGMとして流されていた。それを、久々に生で演ると いう。 ちなみに、最近ステージ上のセンパイはちょっと元気がない。プレイはばっ ちりでも、メンバー全員があっけにとられるようなホームラン・プレイが少な いのが淋しい。もしかして、「ズッキーニ」はセンパイのエンジンをかけ直し 作戦の一環……になるかも。 それにしても、なんという構成の変わりよう!! 前日ともまったく違う。決 まったレパートリーの構成を入れ替えていた“フルーツ・ツアー”よりも、思 いがけない曲が次々と言い渡される今回の構成のほうがスリリング。バンドに とっては。ずいぶん長い間演っていない曲もあったりするし、もう2年もの間 3曲メドレーで演奏されていた“ダライラマ・コーナー”が突如「太陽だけが 〜」を抜かしたバージョンに変更されるというし!! もう、ほとんど“抜き打ちテスト”の世界だ。 多少の難題は笑顔でスイスイとこなしてしまうHKBも、ちょっと真剣な顔で ウーンと考えこんでいる。とはいえ、佐野から難題を出されるだけではなく、 バンドのほうからも新しいアレンジのアイディアが提案されたりして。佐野も、 “逆抜き打ちテスト”を突きつけられている模様。この雰囲気、前にも見たこ とがある。彼らが一段高いハードルを前にした時の緊張感だ。 前の日に跳び越えたハードルの高さを守りつつ、さらなる高みに向かって試 行錯誤を始めた。そんな感じのライブだった。 佐野にとって、ツアーでの3デイズ・ライブは初めての経験だったそうだ。 2デイズ・ライブでもエネルギーの配分は難しいと、メンバーは言っていた。 それだけに、この3日間のエネルギーの配分は、佐野自身にとって新たな課題 だったようだ。 結局、“配分”というよりは、毎日すべての力を出し尽くしてしまったとい う感じもする。 バースデイ・ライブの初日、そしてツアーの新局面を見せた2日め、その勢 いで加速していった3日め。 3日間を通して、ひとりのストーリーが見えた。 最終日は、飛ばしまくり。前日のライブと比べて、佐野は全然冷静じゃなか った。フルーツ・ツアーのファイナル、長野での“ロックンロール・トライア スロン”( (c)ノージ)を思い出させるよな体力勝負のロングラン。 佐野元春、確実に“ニュー元春”になりつつあります。 やっぱり42歳はオトナだなぁと思いきや、この日はやたら無邪気。ヤンチャ。 さすが「僕は今日24歳になった」と言い張る男だけのことはある……(泣)。 贅沢に曲を詰め込んだのはいいが、本編だけでもスゴい長時間の演奏になっ てしまった。しかも、突然決めたプログラムゆえに“体力の限界”というもの を計算に入れてなかったようだ。 本編の最後に演奏されたのは「水上バスに乗って」。 しかし、実は、実は、予定ではさらにもう1曲演奏されるはずだった。 ところが「水上バス」が終わったとたん、佐野はいきなりギターを置いて勢 いよくステージから走り去ってしまった。 あとから聞いたところによれば、体力の限界で「もぉ、ダメ」といったん引 っ込むことにしたのだそうだ。 それを見て、あわてて後に続くメンバー。 しかし、かわいそーだったのはトミー。 彼が次の曲に備えて、うつむいてチューニングをしている間にみんないなく なってしまったのだった……。ローディーに耳うちされて、ハッと顔をあげた トミー。オイテケボリにされたことに気づいて苦笑。 ちなみに本編最後に演奏されるはずだった「ダウンタウン・ボーイ」は、ち ゃんとアンコールで演奏された。 糸が切れた凧のような……という表現があるけれど。飛ばしまくっている時 の佐野元春は、ホントに絵に描いたように“糸の切れた凧”になってしまう。 いきなり走り去って終わった本編に続いて、アンコールが終わった後はギタ ーをしょったまま舞台袖に向かって疾走。ローディーがあわてて佐野の後を走 って追うという、テンヤワンヤの展開に。もう、終盤の佐野さんはMr.ビーン よりも謎なアクションを連発。 わたしの頭の中には、ドリフの“逃げろ!!”のテーマが鳴り響いておりまし たよ。 終演後。 佐野さん、楽屋の机に突っ伏したまま瀕死。 3日間パワー放出しっぱなしで、干物状態です。 「燃え尽きたー」 その言葉が、名古屋で聞いた最後の佐野発言でした。 なぜなら、わたしはコロちゃんをのぞくHKBのメンバーと共に新幹線の最 終で帰京したからです。燃え尽きて灰になった夜は、ぐっすり眠れる……と、 以前佐野さんは書いていましたが。その夜は、灰になったあげく岩のようにバ ク睡したに違いありません。 ----------------------------------------------------------------------- ■楽屋中継・名場面フラーッシュ!!--------------------------------------- 夜も更けてまいりました(←執筆ちゅうの現時点においては)。 名古屋3日間に起こった、あんなことやこんなこと。どっから書いてよいも のやらわかりませんし、すでに超長いメールになってしまったので、タタタッ とフラッシュでお届けいたしましょう。“フルーツ・ツアー”の昔から、ライ ブ・レポートはスッ飛ばして楽屋拝見を楽しみに待っていらっしゃる皆様が多 いことは存じております。 しかし、しかし。ライブ・レポートは、わたしのライフ・ワークなのです。 **************************** 東京駅。名古屋に向かう新幹線に乗り込むと、なんとThe Hobo King Band一 行の後ろには“This!”でご一緒したフィッシュマンズご一行様が!! なんと いう奇遇。やはり、これから名古屋でライブだそう。世間は狭い。奇遇です。 **************************** 名古屋初日は佐野さんのお誕生日。何かイベントをやらなきゃ気がすまない HKBですが、ツアーの合間ということで相談するヒマがありませんでした。 とりあえず、ライブの最中に“ハッピー・バースデイ”を演ろうという提案が。 しかし、佐野さんがいるので大声では相談できません。なべマネの書いたヒミ ツの連絡用紙をコソコソ回したり。佐野さんがトイレに行ったスキにあーだこ ーだと話したりして、誰かが「戻ってくる〜」と合図をするとピタッと話を止 めたりして。 HKB、女子校状態(笑)。 **************************** 楽屋にて。 アルバムからのシングル・カットが決まった「ドクター」のサンプル・カセ ットを、佐野さんがかけました。ちなみに、このシングルのボーナス・トラッ クは3曲めの「ヤング・フォーエヴァー(アコースティック・バージョン)」。 佐野さんのギターが泣ける、HKBもお気に入りのセッションが遂に日の目を 見るのです。佐野さんのヴォーカルも、リラックスしていてすごくイイ感じ。 気持ちいい〜。 この曲を聞きながら、トミーが「わぁ、久々に思い出すなぁ。ウッドストッ クの生活」と言いました。確かに、ものすごくウッドストック生活を思い出さ せる音……。 トミー「森の景色見ながら、ボーッとしてた時の感じがフラッシュバックする なぁ」 佐野「あのスタジオ、森、アパート、居間、キッチン、たき火……フフフフ」 トミー「うわぁーっ、すべてがよみがえるー!!」 興奮している2人。知らない人が見たら、とても謎な光景かもしれません。 でも、本当になんだかすごーくウッドストックの匂いがするんです。不思議な くらい。 ちなみに、これを言うと佐野さんに叱られるかも知れませんが。 このバージョンの「ヤング・フォーエバー」で、ザ・プレストンズの名曲「 おもにころがっていた」が歌えます。偶然なんですぅー。パーカッショニスト のバシーリさんが、何も知らずに叩いていたら似ちゃったんですぅ。 **************************** 実は、なんと!! 佐野さんはジョン・サイモンさんから、彼の作品のために 英語の歌詞を依頼されていたのです。そして、佐野さんの詞にメロディをつけ た譜面が届いたということで佐野さんが楽屋に持ってきました。 コロちゃんがギター、KYONはピアニカ、佐野さんは歌。 3人で、譜面を見ながら演奏してみています。なにしろ譜面1枚しかないの で、どんなアレンジの曲にするつもりなのかがわからない。バラードふうに演 奏してみたり、ボサノバふうに演奏してみたり、ラスカルズふうに演奏してみ たり……いろいろ試しています。でも、どんなふうに演奏してもすごく美しく て素晴らしい曲だということがわかります。 どういう形で発表されるのか、楽しみですね。 **************************** みんなで干支の話をしていました。 で、わたしが「佐野さんはナニドシですか?」と訊ねたところ、佐野さんは ちょうどお弁当をモグモグ食べているところだったのです。わたし、気づかな かったのです。 しかし、くるっと振り向いた佐野さん。 無言で、サルのポーズ。 “シェー”に似た、いわゆる「お猿さんだよ〜」のカッコを想像してください。 「佐野さん、面白すぎますぅ」 と、HKB全員、ぶっ倒れました。 あー、みなさんにも見せてあげたい。わたしが「何のためにカメラ持っとる んじゃ」とメンバーさんに叱られるのは、こーゆー時です。 **************************** 仙台公演の最中に次男が誕生した井上トミー家ですが。 「名前はまだない」(byトミー) ということで、現在名前を考えちゅう。 せっかくHKBがいろんな名前を考えてあげたのに(←前号参照)、そして 佐野さんがステージ上で「名前を募集ちゅう」と勝手にアナウンスしたっつー のに、やっぱり自分で考えるって。あたりまえだよね。 カバンの中から「名前のつけかた辞典」を出してきて、眺めております。 「見た感じは“太郎!!”ってイメージだったんだけどねぇ、次男だしねぇ」 と、ぶつぶつ。やっぱり、画数とかも気にしちゃうし、いろいろと悩むそう ですよ。 他のみなさんも、トミーの本を借りて「佳幸は、佳幸は〜?」とか「まさか 恭生っつーのは載ってないやろ」などと、別の意味で盛り上がっています。 **************************** 名古屋初日。開演15分前。 ふつうは緊迫するでしょ。バンドによっては、スタッフ立ち入り禁止で瞑想 タイムに入るっつー話も聞きますよ。しかし、佐野元春&The Hobo King Band の場合は……。 佐野さんが、センパイに向かって…… 「アキラ〜、今日、オレのかわりに歌って〜(←だだっ子になっている)」 と、いきなり謎の発言。 「ななな、なぬ?」 その謎の行動が“ひとつの宇宙”とまで呼ばれるセンパイでさえ、あまりの 唐突なお願いに激しく動揺……。以下、会話の続きです。 佐「歌って〜歌って〜」 セ「だめ」 佐「オレ、一生懸命アキラやるからさ〜。歌って〜」 セ「そ、それは。佐野くん、自分で歌いなさい」 佐「だめか〜。オレ、アキラやりたいのになぁ」 センパイが宇宙なら、佐野さんも宇宙。もはや、これは宇宙大決戦です。 ああ、ひとつの宇宙を呑み込むアナザー宇宙。いっこのバンドに2つの宇宙。 なんとおそろしいバンドでしょう。 つーか、この2人、ホンットによくわかりません。頭、痛くなるっすー。 ----------------------------------------------------------------------- ■メールください------------------------------------------------------- これをMIPSさんが配信してくれる頃には、もうフツーの時間になっているで しょうが。今ね、朝の6時30分なんですよ。もう、わし、ヘロヘロですねん。 今日は、これから渋公ライブです。なので、どーしてもそれまでに名古屋編を 書きあげねばっと思って……気がついたら。わぁっ、こんな時間ですたい。困 った。原稿の〆切も山ほど抱えておりますのに、やっぱりSTTは必死で書い てしまうのねん。自己満足だけど。 というわけで、もう何を書いているのやらワケがわからなくなってきました ので終わります。 ではでは、もうすぐ渋公でぇ〜(←東京なので江戸っ子ふうに)。 By 能地祐子 from Nohji's Rock'n Roll Shop (http://www.DaDooRonRon.com) ======================================================================= ■ ニュースレターのバックナンバー入手先 <<まもなく公開!>> ■ ニュースレターの配信を中止したい方は stt-info@moto.co.jp まで氏名、メールアドレスをお知らせください ----------------------------------------------------------------------- Copyright(C) 1998 Yuko Nohji. 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