コヨーテ、スピリチャルでスリリングな旅
吉原聖洋

 佐野元春のアルバムを聴く。それは終わりのない旅のようなものだ。彼の音楽はいつも聴く者を旅へと誘い、ここではないどこかに連れていってくれる。

 27年前の処女作『Back To The Street』から3年前の前作『THE SUN』まで、数えきれないほどのさまざまな旅を僕らはくぐり抜けてきた。そのすべてがそれぞれに唯一無二の体験だった。しかし、今回の旅は特にスリリングだ。

 いったいどこに連れていかれるのか、まったく予測することができない。気がついたら、地球の裏側にいるかもしれないし、宇宙の果てにいるかもしれない。あるいは一億年前の世界にいるかもしれないし、十億年後の世界にいるかもしれない。どこからどこまでが現実で、どこからどこまでが幻影なのか、誰にもわからない。変幻自在。神出鬼没。縦横無尽。

 ネイティヴ・アメリカンの伝承では“トリックスター”として登場する“コヨーテ”の名を冠したアルバムにふさわしいスピリチュアルな全12曲。誰もが最初の場所にはいられない。誰もがそれまでのままではいられない。誰もが大いなる変化を経験するだろう。恐れることはない。未来は変化の中にある。