コヨーテは吠えるが、陽はまた昇る
海老沼大輔

ここ10日余り、俺の日々のサウンドトラックは佐野元春の3年ぶりの新作、『Coyote』と化した。まごうことなき、傑作。といえるだろう。

7年の苦闘を経て、ついに佐野元春は、新たな自分の声を見つけたのだと思う。2000年、『20th.Anniversary』のライヴで聴いた佐野元春は、自分の場所、すなわち "年齢相応" に思慮深く、日常という名前の "永遠に続く毎日" をやりすごしている人たちに聴いてもらえる楽曲を探し求めて全力でもがいているように見えた。

実に4年半という慟哭 (あえて、こう呼ばせてもらう)の中から生み出された最初の成果が 『The Sun』であった。最終曲の 『太陽』には、どんなに地位や名誉やカネにまみれた "愚者" にも平等に訪れる "終末" を笑い飛ばす方法がぎっしりと詰め込まれていた。

これは次のアルバムは空恐ろしい出来になるかも、と戦慄した。

あれから3年、『星の下 路の上』、『世界は誰の為に』、『君が気高い孤独なら』、と忘れかけた頃に唯一無二の友人から届く便りのような3枚のシングルの後、

ついに、『Coyote』が届けられた。

最初に聴いたのは、職場へと向かう途中、という一番緊張感に満ちて、あわただしいシチュエーションだったにもかかわらず、よりソリッドな、アルバムヴァージョンの『星の下 路の上』に続く、まっさらの新曲『荒地の何処かで』と『折れた翼』の2曲を皮切りに、強烈に惹き込まれ、一瞬、時間を忘れそうになる感覚に取り込まれた。

更に深化し、磨き込まれたメロディと、ポリティカルな視点が柔らかく日常の描写に溶け込んだ歌詞。無論、"今迄誰にも日本のロック詞表現で使われた事のない言葉" を使うという昔から追求しているテーマは一貫している。

何よりも、佐野元春が、新たな "声" を完全に自分のものにしたこと。本当に数限りないスタジオワークと、ライヴツアーの日々の賜物である。

『TheSun』の実に4年にわたるレコーディングではあまりにThe Hobo King Bandの面々の力量が突出しているが故に、ソングライティング=バンドアンサンブルのバランスに苦慮した跡が、見受けられた。

しかし、今回は、完全にアンサンブルをいわば "元春's Children" ともいうべきレコーディングのメンバーに委ねた結果、自身のソングライティングに没頭できたのではないか、と思う。

これからツアーが決まるまでの間、存分に『Someday』、『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』に次ぐ、佐野元春の三回目の "思春期=デビュー" の到来を告げるこの傑作を、堪能しようと思う。

P.S.
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