奇跡とリスペクト
konoike kazuhiko

 ポップミュージックの妙がこれほど分りやすくキャッチーにそして慎重にという言葉が適切ではないかもしれないが、佐野元春へのリスペクトに溢れた音作りで詰まったアルバムがこれまでの彼のキャリアの中であったであろうか。

 音楽への可能性を随所に感じさせる12編のナンバーはまさに単純な構成によるチャートミュージックとは一線を画している。ある意味、現在の佐野元春の音楽を聴けるということが、私は奇跡であるとすら考える。

 「コヨーテ」に見られる音作りと現役感、さらに研ぎ澄まされた言葉の数々、聴けば聴くほど作品の魅力は増大している。私は一ファンとしてもの凄く嬉しくてたまらないのである。ああ、これはもうライヴが観たいと思わせる。

 今回、レコーディングに集ったミュージシャンは「ノーダメージ」の頃に中高生だった所謂、佐野元春に影響受けたスタッフと言っても良いのではないだろうか。つまり私の世代が音として佐野元春と融合することができたのである。佐野元春は風車の理論で彼らの持ち味を最大限引き出しながら、元春サウンドへ完全に昇華させてしまったのだ。そしてアルバム全編を貫くセンチメンタリズムこそ元春の個性が顕れた「音」そのものだった。

 生きる力と躍動感をまた元春からもらってしまった。私はまた明日も生きていこうと決意することができたのである。私は元春への感謝を自分の生き方で示していきたいと切に思う。