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 9月7日'ARABAKI (荒吐) Rock Festival'ライブレポート
text: 山本智志 



 「ARABAKI (荒吐) Rock Festival」の主催者が佐野元春に出演を交渉してきたのは3月のこと。仙台の国府多賀城で行なわれる大規模な野外ロック・フェスティバルの“取り”を務めてほしい、というオファーだった。

 佐野はその申し出を名誉に感じたが、残念なことにフェスティバルが開催される9月7日は、ホーボー・キング・バンドの何人かのスケジュールがほかの仕事で埋まっていた。そこで佐野はハートランドのメンバーたちに連絡をとった。彼のことばをそのまま借りれば「まったく幸運なことに、その日はみんな空いていた」ことから、古田たかし、西本明、長田進の3人が集結することが決まった。そして、藤井一彦 (グルーヴァーズ) の硬質な音色のギターと高桑圭 (グレイト3) の鼓動するベースを加え、佐野元春&ヒズ・フレンズとして仙台のステージに立つことになったのである。


 佐野の一行は当日午後の新幹線で仙台に向かい、迎えの車でそのまま会場に入った。
「フジ・ロック・フェスティバル」同様、三つのステージが作られ、そこに30組近いアーティスト――グレイプヴァイン、ビギン、エレファントカシマシ、ナタリー・ワイズ、ハリー、ザ・ピーズなど――が登場した。残念ながら見られなかったが、出演者のリストには小泉今日子の名前もあった。


 O.P.King (奥田民生と倉持陽一の共演) がロックのムードにあふれた荒削りなステージを繰りひろげ、くるり (佐野も認めている京都出身のバンド) が“日本のロック”の伝統を真面目に解釈した演奏を聴かせたあと、午後8時過ぎ、佐野&ヒズ・フレンズはメイン・ステージに登場した。フロントは佐野を中央に、向かって左が藤井、右に長田。後方は左から高桑、古田、西本という陣形だ。


 佐野はオープニング・ナンバーに「ニュー・エイジ」を選んだ。以下、「約束の橋」「99ブルース」「ぼくは大人になった」「ジュジュ」「ブロンズの山羊」「ストレンジ・デイズ」、そして「サムデイ」「アンジェリーナ」。この夜演奏されたのは全部で9曲、時間にして60分ほどのライヴ・パフォーマンスだった。


 もう少し聴きたかったという思いは残ったが、佐野&ヒズ・フレンズのステージは満足できるものだった。「99ブルース」では西本が (彼にしては意外なほど) 情熱的なニューオーリンズ風のピアノを弾き、長田はスリルを感じさせるスライド・ギターを披露した。「ストレンジ・デイズ」や「ぼくは大人になった」で藤井が繰り出したゴツゴツした感触のコード・リフは、曲に潜んでいたふてぶてしいロック感覚を呼び起こした。高桑は“一夜だけのハートランド” に新しい個性を持ち込んでいたし、古田はいつもどおり、観る者を楽しくさせる笑顔と信頼できるロック・ビートをふりまいた。


 野外ロック・フェスティバルということもあって、この日の観客は総じて若かった。
彼は「サムデイ」をうたう前に、「次の曲は若いころ、そう、みなさんとちょうど同じくらい、23歳のころに書いた曲です」と穏やかな口調で語りかけた。それまで有名な年上のアーティストのステージをじっと観ているという感じだった観客は、そうした佐野のことばに自分との接点を見つけたようだった。


 そうしてうたわれた「サムデイ」は、ある意味で新鮮ですらあった。佐野元春の音楽にほとんど欠かすことのなかったサックスは、今回はなく、あのヒロイックなサックス・ソロのパートは、佐野が自らハーモニカを吹いた。この曲の中心を貫いているドラムの音にも注意を向けなくてはならなかった。古田は、歌の主人公の心臓の音のように、ビートを打ちつづけた。ギターもキーボードも、そしてヴォーカルも、このドラムの音を中心としてひとつの音楽を形成していた。


 酔うような瞬間が過ぎてしまっても、その感覚は残っていた。そのため、ロックンロールのエネルギーをまき散らして観客を沸かせた最後の曲「アンジェリーナ」があまり印象に残らなかったほどだった。「サムデイ」の演奏がつづく間、ぼくはこの曲を貫く揺るぎないビートに気持ちを委ね、身体を揺らした。この歌の秘められた熱気にあらためて触れ、その熱気に共鳴した。この曲が《ミルク・ジャム・ツアー》でほとんど演奏されなかったことを思えば、このような形で聴けたこと自体、感動的だった。


 正直に告白すれば、ぼくは単なる懐かしさや興味から仙台に“ハートランド”を見に出かけた。しかしそこで見たものは、佐野とハートランドのメンバーとの再会ではあったが、ハートランドの再現ではなかった。 感傷や気取りはそこにはなく、ロック・スターの安易なファン・サービスもなかった。佐野は、戻ることもとどまることもしない。前に進むことしか考えていないのだ。


 《ミルク・ジャム・ツアー》で彼は、ファンがそのコンサートを気に入り、佐野元春の気持ちを理解し、単に古い歌を聴きたがっているわけではないということを知って、驚きにも近い喜びを感じたようだ。仙台でのステージは、そうした佐野が踏み出した次の一歩だった。ロック・フェスティバルという条件のもとでのライヴだったが、楽しかったし、この夜の“思いがけない発見”は、ぼくにとって驚きに近い喜びだった。



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