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 'NO TO WAR' ライブレポート
text: 黒須亜斗 



 2003年4月29日、Bunkamuraオーチャードホールで「NO TO WAR 音楽家たちの平和セッション」と銘打ち、あらゆるジャンルのアーティストたちが集うライブ・イヴェントが行われた。ポピュラー、ジャズ、邦楽、クラシック…。全てのアーティストがノー・ギャランティで出演し、収益金はイラク戦火で家族や家を失い傷ついた子供たちに送られる。

 単独出演した元春は、イヴェントの中程で登場。「NO TO WAR」と銘打つイヴェントとだけに、テーマに沿ったメッセージ性の高い、「誰も気にしちゃいない」「愛のシステム」「シェイム-君を汚したのは誰」の3曲を歌い上げた。
 
 もちろん、観客は物音ひとつたてず聴き入った。あらゆる音楽ジャンルが出演するだけに、元春の曲を初めて聴くような高齢な方々、クラッシックしか聴いたことのないインテリさんなども、斜に構えるのではなく、1曲目が始まるや否や無駄口を黙らせ、本当に聴き入らせたのである。何故か…。これには訳があった。ライブの鬼“佐野元春”の本領が発揮されたのである。
 
 オーチャードホールは、クラッシックやオペラなどを主として行うコンサートホール。つまり、教会のような環境。故に、奏でる音がウォンウォンと会場内を回ってしまい、何を歌っているのか聞き取ることがほぼ不可能。元春は、これを計算して、他のアーティストとはまったく異なる演出で観客を魅了したのだ。他のアーティストは、始めからバンドを従え大音量で演奏していたのに対し、元春はギター1本の弾き語りにより、観客へ歌声をダイレクトに届かせた。歌っている内容が会場の観客全員が理解できるように。実際、元春以前には「何を歌っているのかわかんないね」と言っていた、隣に座っていた夫婦が「歌の内容がわかる!」と驚きにも近い関心を示し、恐らく興味が無かったであろう、元春の歌を理解しようと、身を乗り出して聴き入っていた。
 
 ところが、元春は凄さはこれだけでは終わらなかった。頭の2曲を弾き語りで演奏したのは、観客の耳を慣らす意味もあったのだ。3曲目の「シェイム」ではバンドを従え、本来のライブ感を表現。もちろん、すべての観客は元春に同調、調和した。ライブの鬼“佐野元春”はたった3曲で、会場を1つにまとめあげ、イヴェントの主願である共通の意識を抱かせ、世代の違い、音楽の趣向を超越し、すべての観客を魅了した瞬間であった。



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