RF Interviews
ジャクソン・ブラウン




::: 楽しみにしていたジャクソン・ブラウン氏へのインタビュー。2003年4月、英米によるイラク攻撃の最中に行われた。音楽のこと、家族のこと、国と社会のことなど、誠実に、気さくに語ってくれた。他のメディアでは得られない良いインタビューになったと思う。僕もまた同業だということから、気を許してくれたのかも知れない。─ 佐野元春

■新譜『The Naked Ride Home』
MS: 昨年のローリングストーン誌のインタビューで、『The Naked Ride Home』 のレコーディングバンドのメンバーに、ああしてくれ、こうしてくれって、そう指示せずに好きにやってもらったって話していましたが、そのレコーディングの様子がどんなものだったか、聞かせてもらえますか。

JBほとんどの曲はレコーディングしながら書いたんだ。つまり、1節だけ書いてレコーディングした。今の技術では、ProToolsなどのワークステーションを使えば、小さな部分を集めてひとつのものを創り上げることができるんだよ。レゴなんかみたいにね。そう、実際「The Naked Ride Home」をはじめ、ほとんどの曲はアコースティックで演奏したんだ。それから仲間が帰ってきた。1カ月ほど他のアーティストとやっていたんだ。その間ずっと、あれこれ曲をいじくり回してたね。「Night Inside Me」みたいな曲はそんなふうに作った。僕は演奏しただけで、詞は1節書いただけ。そこからサビを作ったんだよ。1976年頃からこのやり方だね。

僕は録音するとき、できるだけレコーディングセッションの過程で変更できるような形で曲を手放すつもりでいるんだ。だって、いいプレーヤーはいつも何か面白いアイディアをもってきてくれるからね。だから、アルバム作りは人との関係で成り立っている。誰かがいいアイディアを出せば、それを使い、その方向に進むんだ。このレコーディングでは、僕は口を挟むのを止めた。こうすべきだ、ああすべきだと、口やかましいリーダーになるのは辞めた。ただ皆で演奏して、聴いて、演奏して、聴いてと。そうして作ると、曲は皆で作るものになるでしょ。

アルバムに収録されている「Casino Nation」。シャッフルなんだけど、リズムをハーフタイムにしてスウィンギーな感じになった。曲がとてもモダンな印象になるんだ。サウンドはヒップホップ調だと思う。でも息子にそれを言うと「オヤジ、何に言ってるの。それはまったくヒップホップなんかじゃない。いけてるけどヒップホップじゃないよ」なんて言われるけどね。

■ソングライターとしての原点
MS: 僕もソングライターなんで、興味があるんでけれども。ブラウンさんがソングライティングを始めた頃、どんな曲を聴いていたんですか。

JB: 曲を作り始めたころはフォークをやってた。時間がずれたような、ジェシー・フラーみたいなの。でも、僕の父親がディキシーランドのピアノ弾きだったもので、ルイ・アームストロングとかエラ・フィッツジェラルドとか、ビッグ・スパイダーバック、ジャック・ティーガードとか、いいディキシーランドの歌はたくさん聴いていた。家にはいつもそんな音楽がかかってたよ。曲を作り始めた頃はそんな曲を聴いていたかな。絶対にラジオなんかで流れないようなフォークも聴いていた。当時ラジオで流れる曲といえば、ビートルズ。それにR&B。「ロコモーション」のリトル・エヴァやゴーフィン & キング、ダスティー・スプリングフィールド、エバリー・ブラザースとかね。だから、曲作りを始めたころは、皆…、ボブ・ディランもフォークに出会っていて、曲も作ってたよね。レッドベリーとかウッディ・ガスリーなんかも聴いたよ。

それに、親父がロス・アンジェルスのフォーククラブに連れて行ってくれて、そこでライトニング・ホプキンスといったすごいブルースシンガーの演奏を聴いた。最初にライトニング・ホプキンスを見たのはたぶん、14か15歳の頃だったと思う。誰でも自分の原点の話はあるよね。ブルースとか、フォークとか、ディキシーランド・ジャズとかポップとかね。ビートルズは自分たちで曲を作っていて、自分たちの暮らしを歌っていた。それで、僕も自分で曲を作りたくなったんだ。


■ニューヨークの想いで
MS: ブラウンさんはウェストコーストのソングライターとして知られているのだけれども、実際はニューヨークにも住んでいたことがあるんですよね。

JB: ああ。僕が18で初めてNYに行ったときは、本当に面白かった。僕は2、3カ月そこにいて、バーで演奏する仕事を見つけたんだ。それで、NYで初めて書いた曲が、故郷、カリフォルニアについての歌だった。そんな印象で暮らしていたんだね。つまりホームシックだった。

そう、僕は自分にとって一番大切なものを歌った。NYへは、ヨーロッパに向かう友達2人とロスから車を走らせて行ったのだけど、着いてから1、2カ月くらいNYにいた友達もヨーロッパに旅立っちゃって。そこで書いた曲のひとつが「From Silver Lake」という曲。カリフォルニアでの生活と旅立った奴らのことを書いた歌だった。それから「A Child In East Hills」という曲を書いた。今これを歌うときは、カリフォルニアのことを思って歌うんだけど、これを書いたときは実はNYのビルの谷間にいたのさ。


■ウェストコーストは「ブランド」だ
MS: 僕らは日本にいて、ウェストコーストとイーストコーストとの文化の違いって言うのは分かりにくいんだけども、ブラウンさんが考えるイーストコースのソングライターと、ウェストコーストのソングライターの違いについて伺いたいのですが。

JB: 大きな違いはないと思う。ウェストコーストというと、ジェイムス・テイラーとかポール・サイモンとか、特定のアコースティックなメロディー、そう、イーグルス的なものを思い出す人が多いけど、彼らはカリフォルニア出身じゃない。デトロイト出身だったり、フロリダ、テキサス、ネブラスカ出身だったりして、実はLAの出身ではないんだ。それがLAのバンドになっちゃったりする。トム・ペティー&ザ・ハートブレイカーズなんかそうでしょ。バーズもそう。デビッド・クロスビーはカリフォルニア出身だけど、ロジャー・マッギンは東部出身だったと思うよ。

そう考えると面白いよね。ウェストコーストっていうのは「ブランド」だよ。広告とかにあるビキニの女の子、ベニスビーチのボードウォークをローラースケート履いて走っている写真とかね。地域的な競争意識も感じる。知り合いバンドのリトルフィートはウェストコースト出身だ。彼らはハリウッドの高校に行って、ローレルキャニオンで育った。純粋なLAバンドだ。でも彼らの音楽は、南部出身のような音をしている。聴いている人は誰もがジョージアとかメリーランド出身のバンドだと思うでしょ? どうしてかっていうと、みんなカリフォルニアっていうと一種のハーモニーがあると思いたいらしいんだけど、それは単なる機能なのね。神話だと思う。

カリフォルニア音楽っていうと思いつくのが、バーズとかジェファーソン・エアプレイン、イーグルス、ペティとかいう勢力。ポコ、JDサウザー、ブリトー・ブラザースといった一連のグループね。でもカリフォルニア出身のバンドはほとんど皆無なんだ。その真ん中にいるのがジェームス・テイラーだろう。場所というより時間の長さの問題だね。


■弟のこと
MS: ブラウンさんの音楽的ヒーローは弟さんだと聞いているんですけれども、その弟さんとの交流の中でね、何か楽しいエピソードはありませんか?

JB: 弟は僕にピアノを教えてくれたんだ。弟はラジオを聴くのが大好きでね。特にエルビスを聴くのが大好きだった。バーズも大好きだった。彼がエルビスにはまっていた頃、僕はコメディー・レコードにはまってた。あとボブ・ディランが大好きだった。それに弟はザ・アニマルズにもはまっていて、僕はデイブ・ヴァン・ロンクをよく聴いていた。

弟は好き勝手なアレンジでよく唄っていたよ。僕のかわいい弟が、ラジオから流れる曲をたった一人で力強くピアノで演奏するんだからね。たぶん、僕たちが成長する中でこれが一番印象的なことだったと思う。彼と僕は両方とも曲を書くんだけど、僕が成功してきた程には、彼はそんなにうまくは行ってなかったんだよね。難しいよね、家族の中で2人が同じことをやっていて、一人は成功して、もう一人はそうじゃないっていうのは。でもすごく強い友情があって、絆もあって、家族関係の事でたくさん一緒になってやる事があってね。

彼は曲を書いたり、レコード出し続けたよ。メジャーの契約をしてなくて、有名でない多くの僕の友達がしたようにね。モータウンレーベルからもレコードを出したことがあるんだよ。とにかく弟は僕にとって大きな音楽的影響力があって、とっても熱心なミュージシャンであり続けてるよ。


■カバー曲について
MS: アイルランドのザ・チーフタンズが、ブラウンさんの「The Rebel Jesus」をカバーしたのがありますね。

JB: うん

MS: そして、それは僕が一番好きなんだけれども、ブラウンさん自身が一番好きなカバーはどれですか?

JB: 「The Rebel Jesus」はカバーだと言っていたけど、オリジナルなんだよ。ザ・チーフタンズのがオリジナルで、僕のがカバーなんだ。僕が曲を書いたとしてもね。頼まれたからね。一緒にレコーディングをしないかと誘われたんだ。それは、クリスマス用のレコードで、僕はチーフタンズのファンだし、光栄に思ったので引き受けたんだ。あの曲は2、3日で書き上げて、4日間でレコーディングしたんだ。

MS: 多くのミュージシャンがあなたの曲をカバーしています。その中であなたが個人的に気に入っているカバーは何ですか?

JB: ゲイリー・US・ボンズの「The Pretender」は好きだな。ボニー・レイトがカバーした曲もいい。グレッグ・オールマンの 「These Days」もいいね。僕はずっと他の人達に曲を提供してきた。その中で、何人かが歌っているのを聴いて、ここはそんなに大げさじゃなくていいなとか、これはもっと自然に歌った方がいいんじゃないかとかが、よくわかる。そんなふうにして僕は、他のシンガーから歌い方を学ぶんだ。

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