元春サングラスヒストリー

取材・撮影・編集：今井健史、森本真也
デザイン：小山雅嗣
編集協力：M's Factory

─佐野さんといえば、昔からのファンだと「眼鏡をかけたロックンローラー」というイメージがありますが、それと同時にさまざまなサングラスをかけられてきましたよね。それでは、初期の頃からのエピソードを伺えればと思います。

佐野●そもそも僕がサングラスをかけるきっかけとなったのは、やっぱり10代の時に好きだったボブ・ディランやバーズといった当時のサイケデリック・エリアのミュージシャンたちがサングラスをかけていたのがひとつ。それから遡って'50年代、ビートジェネレーションの作家たちがサングラスをかけていた。そんなことから、僕もサングラスをかけるようになったんだ。

　だけども、僕が10代、20代の頃は、クールなサングラスがなかった。どこを探し歩いても、僕がイメージするサングラスがなかったんだ。ところが上野のアメ横に行って、雑貨屋の片隅に、まさに僕がイメージしたセルフレームの黒のサングラスが置いてあったんだよね。僕が16歳くらいの時だったかな。それを見つけたときは本当に有頂天になって、もう当時はバンドを組んでたので、そのサングラスをかけてビートを気取って演奏したりしてた。だけども当時、僕のまわりを見ても、セルフレームの黒のサングラスをかけたミュージシャンとか友だちとかいなかったから、随分変わり者だって見られていたと思うよ。

─当時のサングラスの傾向というのはどういうものだったのですか？

佐野●当時はレイバン型の細いフレームで、卵形のサングラスはあった。でもセルフレームの角形のサングラスというのは、もうすごく古い時代のものだっていうこともあり、日本にはほとんどなかったんだ。そのセルフレームのブラック・サングラスをかけるには、僕は随分遅れてきた世代だから、まわりの友だちや大人たちは「何でそんな古めかしいサングラスをかけてるんだ？」ってよく言われたよ。でも、僕はやっぱり黒のセルフレームのブラック・サングラスが好きだったんだ。

　レコーディング・アーティストとして1980年にデビューして、僕のファンだったら知ってるとおり、バディ・ホリー、彼のスタイルが好きで、そして彼はやはりボストンフレームの眼鏡をかけていた。当時、'80年代の最初はボストンフレームの眼鏡の流行というのもあったし、眼鏡をかけてストラトキャスターで歌ったらちょっとは目立つかなと思って、その格好でデビューした。それと同時にサングラスもかけていて、当時、白山眼鏡店がメジャーになってきて、若い人向けに商品開発するようになってきた。僕はさっそく白山眼鏡店に行って、ちょっと変わったサングラスはないかと物色したんだ。そして見つけたのが、まわりが黄色のフレームのサングラスだ。当時は、ジョン・レノン・モデルとも言われていたよね。

◆白山眼鏡店

昭和21年創業。数十種類に及ぶオリジナル・メガネフレームは、すべて社長の手によるデザイン。中でも「メイフェアー」というデザインは、ジョン・レノンが死の直前までかけていたことで有名。佐野がこのサングラスをかけ、パブリックな写真を撮られたりするのと同時に、白山眼鏡店にはファンから問い合わせが殺到したというエピソードがある。

白山眼鏡店が製作した「メイフェアー」タイプのサングラス。
シングル『Sugartime』のジャケットで見ることができる

佐野●この写真は「Visitors」の時のもので、やはりセルフレームのブラック・サングラス。このサングラスはニューヨークで買いました。で、僕がびっくりしたのは、ニューヨークには自分が欲しかったタイプのサングラスがたくさん売ってたんだ。日本にはないようなタイプのサングラスがね。その時から、外国に行くたびに眼鏡屋に行って、サングラスを探すことにしている。

佐野●次の写真は「Sweet16」の時だね。ちょうどこの頃、僕はロンドンによく行っていて、ロンドンで見つけたメーカーでアラン・ミクリがあった。すごくクリエイティブで、しかもシャレたサングラスがたくさん売っていて、それで僕はニューヨークへ行ってはアラン・ミクリ、ロンドンへ行ってはアラン・ミクリと、アラン・ミクリでたくさんのサングラスを買ったよ。

◆ALAIN MIKLI
【アラン・ミクリ】

デザイナー。1955年、フランス・リヨン出身。1976年、フレネル眼鏡学校卒業。1978年、ミクリ・ディフュージョンを設立。カール・ラガーフェルド、ジャンポール・ゴルチエのコレクションにもアイテムを提供。また1998年には、ウェアラインをスタートさせている。

「Sweet 16」時代にかけていたアラン・ミクリ・デザインのサングラス

これも同じくアラン・ミクリのもの。太めのフレームが印象的

佐野●特に、そのアラン・ミクリ・デザインで僕がびっくりしたのは、音楽のト音記号の格好をしたサングラス。ニューヨークのアラン・ミクリで立派なショーケースの中に入ってたものを見つけたんだけども、これはアラン・ミクリのアニバーサリー・イヤーに開発された限定品なんだ。僕はミュージシャンだし、ト音記号のサングラスとはなんてイカしているんだ！って思い、僕はひと目見た途端に欲しくなって買いました。今では僕の宝物だよ。あんなフォルムのサングラスは他にないし、とにかく美しいプロダクツだ。これは僕の自慢の一品だね。

ト音記号をモチーフにした美しいフォルムの
アラン・ミクリ・アニバーサリーイヤー限定サングラス

ミュージシャンとサングラスの関係。僕も10代のときにそれは感じたね。ジャズ・ミュージシャンとかR&Bのミュージシャンが、よくサングラスをかけていた。だから、アーリー60'sのフォークリバイバルのあの中で、白人ソングライターであるボブ・ディランがサングラスをかけていたというのは、随分ユニークなことだったと思う。ディランがサングラスをかけることによって何を表現していたかというと、これは僕の推測だけど、自分のアイデンティティはブルースにあるということを、暗に表明していたと思うんだ。
　かつてのデルタ・ブルースの黒人ミュージシャンたちは、目が見えなかったりするBlind Boyたちが多いから、みんなサングラスをかける。だからブラックサングラスはああした盲目のブルースマンがオリジナルで、ディランはそれを気取っていたんだ。俺はブルースも分かってる、その表明として白人なのにブルースマンを気取っていたと思う。それは現代でも同じで、白人のキッズたちもある頃から黒人の真似をし始める。ギャングとか娼婦とか、ストリートなしゃべり方といったアティチュードがCoolだぜってね。ラップなんて、その典型だよ。
　だから「俺は分かってるぜ、俺はイケてるぜ」っていうのを見せるには、サングラスをかけるというのが一番手っ取り早い表明の仕方なんだ。僕はそんなもんだと思うよ、サングラスというのは。
　でもまぁ、南の島へ行ったりとか、ロサンジェルスへ行くと生活必需品としてみんなサングラスかけてるから、そうとも言えないけどね（笑）。

──佐野元春

─この写真は「The Circle」のころのものですね。

佐野●この頃から黒のセルフレームよりも、マーブルで中が濃い緑や濃い黒のサングラスをかけるようになった。これもアラン・ミクリの眼鏡なんだけども結構気に入っていて、「The Circleツアー」の時はときどきステージにも着けて出てました。

フレームがマーブル調の落ち着いたデザイン。「The Circle」の頃によく使われていた

佐野●続いて、「Doctor」のジャケットと「Stones & Eggs」の頃にかけていたサングラス。この頃はよく丸型のサングラスをかけていた。これは、あるスタッフからもらったものです。ある撮影の時、僕は不機嫌で目を見せたくなかった。それで、「誰かサングラスを持ってない？」と聞いたら、スタッフの女性が「持ってます」って。それで、そのサングラスをかけて撮って、その仕上がりを見たら格好いいじゃん、悪くないよって（笑）。ただ、女性ものだからかもしれないけど、つるの部分に金色の装飾が付いていた。それがちょっといただけなかったので、僕は黒いビニールテープをそこに巻いて、金色を隠して着けていた。だからこの頃、そのサングラスを着けて写真とかよく撮られたけど、アップの写真などを見るとビニールテープで巻いているのが見えるのもあるよ。

Smith製サングラスとの出会い
─ そして、今回MWSストアで販売が開始されるSmith製のサングラスですが、出会いのきっかけは？

佐野●今回ホーボー・キング・バンドのフォト・セッションがあって、その時に友人が持ってきたのが「Smith」のサングラスだった。ずっと見てもらうと分かるように、'80年代から'90年代に至るまでは、ある程度の高さがある眼鏡が流行っていたんだけど、最近は高さが潰れて幅がある形状が流行している。僕はその流行はよく知っているけれども、何かその流行に乗るのが嫌で、高さの低いサングラスは人から勧められても「どうもね」って感じだった。

　しかしフォト・セッションの時に僕の友人が持ってきたそのサングラスは、高さは低いものだったんだけど、全体のフォルムが眼鏡としてすごく美しかったんだね。だから、あ、これは良いなと思ってかけて、それで写真を撮ってもらった。そして写真の仕上がりを見たら、これもまた良いじゃないかということになった。
それ以来、最近ではSmithのサングラスをかけている。その後、Smithのことを調べたら自転車メーカーのひとつのグッズとしてあったと思う。Smithのそうしたバックグランドを後から調べたら、すごくおもしろかったな。だから、今ではすっかりSmith製のサングラスがお気に入りで、よく使っているよ。

元春が一目で気に入ったというSmithのサングラス。スポーティかつファッション性にも優れており、街でもアウトドアでも使えるオールラウンド・アイテムだ

記事中にあった元春愛用のSmith製サングラス【MWS元春仕様特製ケース付き】は期間限定販売（5/31[木]～6/21[木]）で、販売終了しております。お買い求めありがとうございました。

▲