ハートランドからの手紙#91
掲載時:95年12月中旬
掲載場所:ZENTEIオリジナルCD-郵政省96年度採用者に対する特典として配布

僕がまだ十代のはすっぱな少年だったころ、自分は、ひとりぼっちなのだと感じていた。夜空には数えきれないほど星があるけれど、自分はそのうちのたったひとつにしか過ぎない、孤独な存在なのだと思っていた。

そんな孤独に耐えらなくなったとき、僕は歌を書き始めた。歌を書くこととは、つまり、見知らぬ誰かに手紙を書くようなものだ。僕は、暇にまかせて、やみくもに書き散らかした。時にはたった一行、時には何千字も費やして。

やがて、その手紙を受け取ってくれた何人かから、ある日、返信が届いた。そこにはこう書かれていた。「僕らは友達になれるかもしれない」。それを読んだとき、有頂天になった。もはや「夜空に浮かぶひとりぼっちの星」ではなかった。僕は点から線に連なることができた。こうして、僕の旅は、人と人との結びつきを求めるところから始まった。以来、あてもなく歌を書き続けている。

現在、人々は自分の必要に応じた通信方法を選ぶことができるようになった。「紙とペン」から「電子ネットワークとキーボード」まで、その手段はさまざまだ。しかしどんなに通信のシステムが発達したとしても、結びつきを求める人々の精神は変わらない。

「点」から「線」へ。世界にとってより意義深い通信システムの構築のために、みなさんの新しい智恵と力が必要とされています。がんばってください。

1996年、入局おめでとう。
佐野元春


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