'97.8.23 -2-
文・写真:及川 毅


 12:22。チャット用のPerformaで、Netscapeを立ち上げる。が、この段階では全ての端末機器はまだ回線には繋がっていない。「中継は前にも(RealAudioを)やってるから2回目なんだけど、RealVideoは初めてだから…」特設Webサイトの作成から、中継に関する渉外交渉まで統括的に担当した遠藤が、筆者の「中継は、何回目になるんですか?」という質問に対して、自分に言い含めるように答える。
 12:33。楽屋裏用のPerformaの動作がとりあえず安定した。本部室から廊下に運び出され、出演者の注意を引きやすいようにセッティングされる。
 12:37、佐野氏来室。今度は特に伝達ということではなく、単純にRealVideoのパフォーマンスが気になったからのようだ。だが、サーバのない今はエンコーディング後の映像をまだ見ることはできない。
 12:40、楽屋裏中継機材のセッティングが完了。Performaの向かって右横に、遠藤のサイバーショットが据え付けられ、モニタにはそのオン・カメラ映像が映し出される。「何だろう?」と思って画面をのぞくと、タイミングが合えば撮影されるという仕組みだ。撮影の間隔はとりあえず5分に設定された。
 12:55。映像機材のセットアップが未だ完了しない。スイッチング卓を通すにあたっての、入出力の組み合わせに苦慮しているようだ。
 一方、米田と遠藤は、それぞれ端末の前で、telnet接続の通信画面とメーリングリストのログを参照しながら、しきりに何かのファイルを探している。どうやらWebサイトの更新に必要なものらしい。
 13:00。「1と3しか来ない。2番が死んでる」香川がスイッチング卓の故障を訴える。映像機材の準備が完了していなかったのはこれが原因だったようだ。幸いなことに、予備となるスイッチング卓があったので、急遽機材を交換。
 13:10。午前中のあわただしさと比べると、いくぶんの余裕がメンバーに現れてきた。「どんなもんですか?」と道向に聞くと、「あとはトランス・コスモスだけですね」との返事。皆、気にはしているのだ。
 チャット用のPerformaを使っていた遠藤が作業を終えて、「ちゃ楽」が立ち上げられた。これでこのマシンはオフィシャルなチャット専用機として、ライブ終了まで働くことになる。
 セッティングが終わった映像機材の方では、今日のスイッチング担当である鈴木がスイッチング卓のワイプ機能を珍しがって、楽しそうにいろいろ試していた。
 13:15、森本の持ち込み機材のPowerBookが不調で、LANカードを受け付けない。MIPSのメインチャッターとして、慣れきった機材を持ち込んで臨む予定が狂った森本には、同じIMを使う筆者のPowerBookを貸すことに。
 13:21、佐野氏来室。スモークを焚いた時のカメラの光量落ちの可能性が気になり、香川にその旨を伝達。佐野氏はこの日はライブ出演がないためか、頻繁に本部室を訪れて、気になったこと、伝えておきたいことを話してくれる。さながら、部活の顧問と部員のようだ。
 香川からも佐野氏に伝達があった。各バンドの入れ替えの幕間、Web上では事前に用意したビデオを流したい。So-netの広告、THIS! '97自体のロゴ、そして佐野氏のバンドのビデオクリップ集。このビデオクリップの放映に関して、許可を求めたのだ。佐野氏、快諾。「僕のビデオで時間調整してくれて、構わないから」。
 遠藤は、サーバセッティングの遅れに関して佐野氏に説明をする。「連絡があって、車の渋滞だそうです。もうすぐ着くと思います」。
 電源ケーブルが足りなそうだね。タコ足を用意させるから。佐野氏はそう言って部屋を後にした。
 13:27。ローディー氏が、MIPSに多口タップを届けてくれた。ありがとうございます、といって早速利用。……ほどなくして佐野氏が再び現れる。「タコ足、届いた?」ありがとうございます。もう使ってます。  そのまさしく直後、13:28。「おはようございます……」背を曲げながら、トランス・コスモス登場。全員元気に、おはようございます、と返すが、みな声には安堵のタメが含まれていた。
 サーバが立ち上がれば、RealVideoのエンコーディングが開始できる。一刻も早い方がいいのだが、さすがにプロの作業は素早い。ハードウェアの搬入を済ますと、あっさりとWindows NT workgroop serverが立ち上がり、RealVideoのセットアップに入る。
 13:31、一方森本は苦戦中だ。リプレイスした借り物PowerBookもカードを認識しない。500シリーズにPCMCIAモジュールという組み合わせなので相性が悪いからかもしれない、ということで本番時にはPerformaにて参加することに。
 サーバのRealVideoのセットアップは、まだ完了していない。
 13:44、この時点でMIPSの作業はRealVideo待ちで、一時小康状態に入る。昼食をこの間にとる人が多い。「作業、押し気味ですか?」との問いに「そうでもないですよ」とは遠藤の弁。
 13:56、楽屋裏Performaはなかなか思惑通りには目をひかない。というより、何をしているものなのかよく判らないのかもしれないと思ったか、道向、紙に大きく「ON AIR」と書いて、マシン近くに掲示。さっきよりは、目立つ。
 13:58、楽屋裏生中継前に、ということでMIPSメンバー、入れ替わり楽屋裏カメラの前に立って軽くお茶目なポーズで写ってみたりしている。香川のそんな姿を見た森本が「香川さんって、そういう芸風だったんだ……」とぼそっと呟く。
 14:00、楽屋裏映像、インターネットを通じて配信開始。ライブ開始まではあと3時間。しかしMIPSにとっては、既に「LIVE! on line」なのだ。
 こうしてMIPSのインターネット中継が、スタートした。

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