'97.8.23 -3-
文・写真:及川 毅


 14:00、MIPSのスケジュールはジャスト・オン・タイムである。楽屋裏映像配信開始と同時に、特設チャットルームにもMIPSによる書き込みが開始された。まさに楽屋裏からの生レポートである。しかしこの時点で、チャットルームに参加している人はいなかった。ここから当分の間は、森本による定時報告的な記述が散発的に続く。
 14:02、RealVideoのセッティングが完了。あとはアナログ送出機材との接続を済ませ、実際の映像に合わせて調整を行う。
 14:10。サーバに少々問題が発生する。So-netの中までしかルーティングされないのだ。トランス・コスモス担当者と、米田の間で対策が講じられる。
 14:24、MIPSメンバー、今井が到着。幕間で流すビデオテープを持ってきたのだ。早速試写される。So-netのCMだ。……くま?「モモちゃん」という名前のキャラクターのクマのぬいぐるみが、フリップボードを持って動くという、なんとものどかなCMに一同大爆笑。「昨日の8時半位に急いで撮ったんだよ、これ」同席していたSo-net関係者が真相を語る。今井が、件のビデオテープについて注意事項を伝達する。「30分位流したら巻き戻して下さいね。でないと、前に録ってあった映画が流れちゃうから」。一同また爆笑。
 14:30、ここで今井がチャットに参加。チャットには「がめ」さんが参加している。この人、実はMIPSメンバーの一人なのだが、現在はニューヨークに留学中のため、海外からのアクセスとなっている。チャット中も、RealVideoデータの配信状況など、こまめにレポートしてくれた。
 14:34、佐野氏が現れる。が、RealVideoデータはまだ確認してもらえる状況にはない。
 ところで、この週末にはもう一つのインターネットライブが行われる。サザンオールスターズのスタジオライブである。流石にMIPSスタッフもその事を意識せずにはいられない。誰かが「サザンは、今日でしたっけ?」と尋ねる。いや明日だ、という返答に米田が続ける。「今日の敵は、多摩川花火大会」。笑いが起きる。なるほど、確かに強敵には違いない。
 14:49。遠藤が、トランス・コスモスの技術者と話をしている。RealVideoのエンコーディング時のサンプリングレートについてらしい。音声は秒間最大45Kbps、フレームは7.5Kbps。画像は秒間4〜5コマに抑えて、その分音声を最大限重視しようとの目論見である。それが結果的に正しかったことは、後のチャット参加者の発言からもうかがえる。
 14:52、ここで本番に向けての注意が道向から入る。「本番中は、室内照明を落とします。他に中継のスタッフもおられるので、私語を交わさない様にお願いします」特に森本さん、と、MIPS一の関西芸人が名指しされる。笑いが起きた。
 14:57、佐野氏来室。楽屋裏映像の配信画面をのぞき込む。「これは今、どのくらいの間隔で撮影しているの?」「5分です」「もっと短くならないかなぁ。10秒とか、できるかな?」「うーん、30秒間隔位が(データ転送上)限界でしょうか」「OK、じゃ、それでやってみて下さい」。
 15:04、「がめ」さんから「楽屋裏の静止画が、3分割されて見えなくなるところが出てくる」との報告。配信データはノーマルなGIF画像である。3分割とはどういう状況なのだろうか。米田が首をひねる「アメリカだからかなあ?」。
 遠藤は、楽屋裏映像の配信間隔を変えるため、HTMLの書き換えを行っていた。
 15:20、道向が本日の全バンドの曲目表を持ってきて、壁面に張り出す。チャットでライブ状況を伝えるための資料となるのだ。
 15:26、アナログ中継機材はまだ香川と鈴木によって結線が続く。なかなかややこしい。
 15:28、本日の出演バンド、TRICERATOPS(トライセラトップス)のドラム、吉田さんが本部室に現れる。どうやら、楽屋裏マシンから辿ってここにやってきたらしい。「今、この機械が全世界と繋がって、映像とメッセージを流しているんですよ」との説明に、とても関心を示した様子。吉田さんのメッセージが、MIPSメンバーによる代理打ち込みでチャットボード上に流れる。「がめ」さんから「今日はどんな服を着ているんですか?」などと質問が飛ぶ。それらに答えながら、「ライブは好きなので、楽しんでやりたいと思います」と今日の抱負を語ってくれた。勿論、それもチャットボード上に流される。
 15:34、ふと楽屋裏マシンの方を見ると、他の出演者もカメラとマシンの前で興味深そうにのぞき込んだりしている。道向が、彼らに主旨説明。
 15:39。吉田さんと入れ違いに、今度はギターの和田さんが入ってくる。吉田さんと同様に、代理チャットが始まる。初めて体験するコミュニケーションを、面白がってくれているようだ。「がめ」さんから、「待ってます」というメッセージが上がる。何だろう。訝るスタッフと和田さん。「何を待っているんですか?」と問いかけると、返信があった。「開演時間、です」。何てことのない会話だが、ボード上で交互のやりとりとなると、妙におかしな間ができて、一同大ウケ。
 ところで、香川が見あたらない。鈴木に尋ねると、「映像のチャンネルが1つ足りないので、切替機を買いにいきました」とのこと。セッティングに苦労していたのはこのためだったのだ。
 15:48、会場まであと約10分。「楽屋裏中継、落ちてます」とのチャットでの報告。確認と対策が行われる。香川が切替機を手に戻ってくる。これで映像セッティングもばっちり、な筈だ。

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