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 2月20日 SKYDRIVERS HIGH Vol.02
text: 吉原聖洋 



 ここを訪れると、いつもあの夜のことを思い出す。1983年3月18日のあの夜。“Rock & Roll Night Tour”のファイナル・ギグ。若き佐野元春がニューヨークへと旅立つ前の最後のコンサート。そのときのニューヨーク滞在から生まれたアルバム『VISITORS』の20周年を記念した『VISITORS 20th Anniversary Edition』がリリースされる一週間前、この中野サンプラザホールのステージに佐野元春が登場する、というニュースはとても偶然とは思えない。

 堂島孝平がプレゼンターを務める“SKYDRIVERS HIGH Vol.02”。ポップ・ミュージックを愛する堂島ならではのリスペクトの精神にあふれたイヴェントだ。一昨年に行なわれた“Vol.1”のライヴでは小坂忠がゲストとして登場し、自作曲と共に佐野の「サムデイ」のカヴァーも披露している。熱心な佐野元春ファンとして知られている堂島と佐野の共演が楽しいものにならないはずはない。

 今夜のコンサートは堂島の「スカイドライバー」で幕を開けた。東京スカパラダイスオーケストラ、フィッシュマンズ、レピッシュ、エルマロなどのメンバーが集まったGO-GO KINGRECORDERS(以下GGKR)の力強い演奏に乗って、堂島はいつも以上にハジケているように見える。佐野との共演が後に控えているせいか、やや緊張気味ではあるものの、だからこそ思いきりハジケたい、という彼の気持ちが伝わってくる。

 「今日のゲストに敬意を表して」という堂島の言葉から始まった「スターダスト・キッズ」は、すでに彼のコンサートでは欠かせないレパートリーのひとつになっている。つんのめるようなGGKRの演奏に乗って、ステージの上を駆けまわりながら歌う彼の姿は、その曲を書いた頃の佐野元春を思い出させる。

 スカパラホーンズのGAMOU、北原雅彦、NARGOに続いて、「日本の誇る最高のシンガー・ソングライター! そしてパイオニア! 愛しています! 今夜のゲスト、佐野元春!」と堂島に紹介されて、今夜のスペシャル・ゲストがステージに登場する。堂島のファンも佐野を温かく、そして熱狂的に迎えてくれた。いつも通りの佐野のカウントで「ソー・ヤング」のイントロが始まった瞬間、心地よい熱気が全身が包んだ。いつもの夜とは違う、という予感。今夜は特別な夜になる。

 風邪気味らしい佐野の歌声はかなりハスキーだが、サポートする堂島のスウィート・ヴォイスとは好対照で、二人のバランスはとても良い。異なる個性だからこそ生きる組み合わせだ。「こんな素敵なパーティーに呼んでくれて、どうもありがとう」という佐野の挨拶に続いて、「ガラスのジェネレーション」ではまず堂島がリード・ヴォーカルを務め、佐野が2番を歌う。「ワイルドハーツ」は佐野がリード・ヴォーカル。堂島にとっては最も思い出深い曲のひとつだ。

 次の選曲はやや意外なものだった。容易に演奏できるはずのない難曲「99ブルース」。たった数回のリハーサルでモノにできる曲ではない。しかし、GGKRはもう何年も演奏し続けているかのようにプレイしてみせる。さすがGGKR。ザ・ホーボー・キング・バンド同様、プロデューサーとしても有能な凄腕ミュージシャンたちの集合体である彼らの実力を改めて思い知らされた。

 コンサートが進行するに連れて、不思議な感覚を覚えた。1983年3月18日と2004年2月20日がつながっている、とでもいうような、過去・現在・未来が結びついて、時間軸の上を自由に行き来しているような感覚。GGKRとスカパラホーンズの輪郭がザ・ハートランドと東京ビーバップと重なって見える。もちろん1983年3月18日の時点ではまだ東京ビーバップは存在していないが、どうやら“カフェ・ボヘミア・ミーティング”から紛れ込んできたようだ。

 次の「ヤングブラッズ」ではドラマーの茂木欣一がリード・ヴォーカルを務める。学生時代にコピー・バンドをやっていたというだけあって、これが予想以上に上手い。歌心あふれるドラミングで定評のある茂木だが、ヴォーカリストとしても魅力的な歌声の持ち主だ。「ヤングブラッズ」を歌う茂木を、佐野はまるで20年前の自分を眺めているような、やさしい眼で見つめていた。「ヤングブラッズ」演奏後、佐野はここで一旦ステージを降りる。

 そして、アンコール。堂島がアンコールの1曲目に歌った新曲「ハジメテのハジマリ」は、佐野が21年前のコンサートのアンコールで歌った「グッドバイからはじめよう」と呼応する。「終わりは/はじまり」と「終わらせることから/はじめよう」。21年の時を超えて響き合うアンサー・ソングだと僕は思った。

 再び佐野がステージに登場し、2日後の2月22日に誕生日を迎える堂島に「Happy Birthday To You」のプレゼント。素敵なサプライズにメロメロになる堂島。そのとき、佐野元春のこんなシーンを僕らは何度も見てきたな、と思った。“ザ・サークル・ツアー”や“ザ・バーン・ツアー”でもこんなシーンがあったし、もっと遡ってみれば、“カフェ・ボヘミア・ミーティング”や“ヴィジターズ・ツアー”でも見たような気がする。

 そして今夜のシークレット・ゲスト、伊藤銀次が登場する。佐野との久しぶりの共演について、堂島から感想を訊かれて、銀次は「不思議な気持ち」と答えていたが、ここに集まったオールド・ファンは皆、そう思っていたはずだ。今夜の中野サンプラザホールでは時間軸が混乱し、過去・現在・未来が入り乱れている。

 アンコールでは堂島と佐野が「サムデイ」のリード・ヴォーカルをシェアしていたが、多くの観客も彼らと一緒に歌っていた。たぶん10代から40代まで、さまざまな世代の観客が「サムデイ」を一緒に歌うシーンはとても感動的だ。そして、最後は佐野が歌う「アンジェリーナ」。銀次のエキセントリックなギター・ソロが炸裂する。その瞬間、僕らは再び幸福なタイムスリップを経験した。

 今夜は特別な夜だった。でも、これは決して奇跡なんかじゃない。本気でやろうと思えば、実現できないことなんて何もない、ということを堂島孝平とGGKR、スカパラホーンズ、そして佐野元春と伊藤銀次が教えてくれた。世代を超えた「こんな素敵なパーティー」がもっと日常的に開かれていたら、この世界はもっと楽しいものになるだろう。毎月のように、いや毎週のように、街のあちこちで「こんな素敵なパーティー」が開かれていたら、「フルーツ -夏が来るまでには」の一節を借りれば「僕らはもっと陽気になれるはず」だ。



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