'97.8.24 -1-
文・写真:及川 毅


 1日目の夜は夕方から降り続いた大雨がやまず、とてもじゃないが軽い打ち上げなどという場合ではない。大体、明日も中継があるという状況では皆で呑みに行くという訳にもそうそうゆくまい。そういうわけで一旦帰路についたMIPSの面々ではあったが、帰宅後も深夜までチャットに参加する者、棚上げにしていた仕事に追われる者、データを更新する者、気疲れして早々に床につく者、しかしそれでも頭のどこかでは明日の中継の事が気がかりで仕方がないのだ。なにしろ、明日は御大、佐野元春のバンドがトリを務めるのだ。基本的にファンのボランティアであるMIPSのメンバーが、そのことを意識していなかった筈はあるまい。少なくとも、それをしっかりと成功させてからでないと、彼らにとっての「お疲れさま」はやってこないのだ。

 24日、日曜日、ライブ2日目。

 前日にセッティングされた機材はそのままの状態にしてあるため、今日は昨日ほど煩雑な事前作業は必要とならない。MIPSメンバーの入り時間は13:00になっていた。この時点では香川、道向、遠藤、米田、今井が会場入りしている。サザンオールスターズのスタジオライブ中継は既に始まっていて、米田のThinkPad上のブラウザにはその画面が表示されている。THIS! '97のライブ中継はサザンと入れ替わるような形の時間帯になっているが、お互いネットでの中継という関係上、向こうのネットオーディエンスがそのままこちらに流れてきて、トラフィックが増大し負荷がかかることも容易に想像がつくので、とりあえずの状況を把握しておきたかったのだ。そして何より、同じライブ中継ということで、意識しているという事もあっただろう。
 道向はゆうべの帰宅後も、3時頃までチャットを覗いていたようだ。「夜の方が、濃かったですよ」。確かに、ライブ前よりは、終了後の方が盛り上がるものだ。その点では、通常のライブ客も、ネットの観客も変わりはない。
 13:40、今野と森本が現れる。多少遅れ気味の入りではあるが、基本的に滞りはない。すべきことは、先の5名でほぼ事足りていたようだ。この辺りが、2日目という感じだ。
 13:57、道向がチャット用のPerformaの傍らにデスクライトがあるのを発見。昨日のチャット時には、演奏中に室内照明が落とされる為に、曲目表などの確認がしにくくなっていたため、誰かが気を利かせて持ってきてくれたのだ。「誰が持ってきたんだろう?」佐野さんじゃない?等と皆で言っていたのだが、篤志家は実は遠藤であった。
 14:00、香川が本日の映像/音声送出のチェックに入る。PAのセッティングが昨日と同じとは限らないからだ。昨日のようにステージではもうリハーサルが始まっているから、今のうちにチェックを始めておこう、というわけだ。リハーサル中のアーティストはThe Groovers。ベースの音がやたらと太く、まるでディストーションをかけたような音だ。今日のラインの音は多少歪み気味で本部室に届いている。「音、本番だとよくなるよね」香川がいささか心配げだ。
 14:06、昨日と同じく、楽屋裏中継開始。モニタの為、本部室のマシンもNetscapeを経ち上げる。webサイト表示時の立ち上がりが昨日よりも早い。一同「こうでなくちゃー」と声を上げる。
 14:09、「一人ずつ、楽屋裏カメラに映ってもらおうか。能地祐子さんとか、WIREDの人とかさ」と遠藤が言う。一同、笑い。能地さんはすでにMIPSの面子とは顔馴染みだ。本日もこの会場に見えるとのこと。WIREDというのは、ちょうど今日の午前中に佐野氏にWIREDの取材が有ったことを意味する。と、ひと事のように書いているが、実はMIPSも今日は日経01の取材を受けることになっている。インターネットライヴをボランティアベースで行うということは、やはりそれなりにバリューがある、ということだろう。
 14:12、今野がサーバマシンの回線への接続に苦労している。「(HUB)つなぐとこ、まちがえたー」なかなか大変そうである。
 14:13、米田と今井が楽屋裏カメラに映る。そしてあることに気が付く。「(Hobo King Bandの)小田原さんにかぶってるー」笑い。
 14:19、チャットルームを確認。この時点では参加者は2名。前日と余り状況は変わっていない。
 14:21、サーバマシンはまだ接続されない。今野の苦戦が続く。「DNSが接続されないなあ」。
 14:23、全体的にリラックスしたムードが漂っている。森本、遠藤、今野は本部室でそれぞれ作業、もしくは待機中。数名は、楽屋裏で例のカメラの設定を調整しつつも何度も映ったりして遊んでいる。
 14:31、RealVideoの送出に関しては全く状況に変化がないことを確認。つまり、サーバマシンの接続が完了したのだ。
 14:34、米田のThinkPadの画面で、サザンのインターネット中継を見ていた今井が思わず漏らす。「サザン、恐るるに足りず」。先方の映像は、スペースシャワーTVでオンエアされているものとまったく同じカメラワークだ。MIPSの中継は、同じくスペースシャワーの協力を受けてはいるものの、スイッチングは自分たちで行っている。前日レポートにも書いたが、RealVideo中継では、フレームレートに合わせたスイッチワークが必要になってくるため、必ずしもTV的なスイッチングがベストとは限らない。今井は、つまりそう言うことを言ったのである。
 14:41、道向がバイクに乗っておやつを買いに行く。昨日には見られなかった光景だ。というか、昨日はそういう時間的精神的余裕がなかったということでもある。
 14:47、Hobo King Bandの佐橋氏、楽屋裏中継に映る。
 14:50、楽屋裏カメラへの「客寄せ」の一環として、道向、楽屋裏Performaの画面にカメラ画像と一緒にチャット画面を写すことを考えつく。早速実行。「(カメラに映った人に本部室から)チャットでメッセージ送って、本部室に呼んでくるとか」米田が言う。
 14:54、遠藤がHTMLを書き換えている。Webサイトにあるバンド紹介を、デフォルト23日表示から24日表示に変える為だ。見た目には派手な変化ではないかもしれないが、こうして2日目に合わせて細かいケアが行われている。
 14:58、今井にCD-ROMが届く。Mac OS 7.6.1である。PerformaのOSが7.5.5だったので、このさい一気に7.6.1にしてしまった方が安定するからだ、という。そういえば先ほどどこかへ電話をかけていたが、これのためだったようだ。道向が、なにやら楽屋裏マシンの裏に張り紙をしている。黒ガムテープを切り張りして「みて!」と書いてある。相変わらず、客引きへの努力を怠らない。
 15:10、森本がBLITZ正面に向かって行く。聞くと、Hobo King Bandの面々がそっちの方向へふらふらと出かけていったのだそうだ。戻ってくるときに正面から戻ってくると面白いことになる、といって張ってみるのだという。確かに、そういう現場を押さえられれば「おいしいネタ」ではあろう。……結局、押さえられなかったが。

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