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 Rock & Soul Review | “experiment”と“banquet”
text: 吉原聖洋 


 コンサート・ツアーというのは初日から楽日までの全公演がまるごとそのミュージシャンの作品だと思っている。だから一夜のギグを観ただけでそのツアーの成否を判断することはできない。しかも佐野元春とザ・ホーボー・キング・バンドのツアーでは毎日が変化の連続だから、一度でも見逃したらツアー全体の文脈を見失ってしまう恐れもある。今回、幸運にも筆者は“Rock & Soul Review”の全公演に参加することができた。それができなければ、このツアーの全貌を捉えることは到底できなかっただろう。


 “Rock & Soul Review”では公演本数が少なかったこともあって、ひとつひとつのギグがそれぞれに重要な意味を持っていた。とりわけZEPP仙台とZEPP福岡でのギグは特別なものだった。それぞれのオーディエンスに最大限に楽しんでもらえるセット・リストについて、佐野はリハーサルの時点から試行錯誤を繰り返していた。このふたつのライヴハウスでのギグがなかったら“Rock & Soul Review”はまったく異なる展開を見せていただろう。


 “Rock & Soul Review”にはレヴェルの異なる重層的なストーリー群があり、容易に語ることのできない複雑性がそこにはあるのだが、限られたスペースのためにストーリーを単純化することを許してもらえば、ZEPP仙台でのギグは“experiment”であり、ZEPP福岡でのギグは“banquet”だった。


 ZEPP仙台にはライヴハウスならではの興奮があり、ZEPP福岡にはライヴハウスならではの親密な交感があった。セット・リストというのは演奏される曲目だけの問題ではない。どちらのギグにもそこでしか味わえないユニークなタッチとフィーリングがあった。そして、ZEPP仙台でのギグはその直後の東京公演に、ZEPP福岡でのギグはその直後の名古屋公演に大きな影響を与えた。


 ZEPP仙台とZEPP福岡でのギグについて佐野が心配していたのは、演奏時間の長さとオーディエンスの体力だった。ライヴ中のMCでも佐野はオーディエンスを気遣っていたが、本編が終わってアンコールに向かう際、彼が常にスタッフに訊ねていたのは「オーディエンスは大丈夫か? 疲れた表情を見せてはいないか? 俺はもっと突っ走っていいのか?」ということだった。


 ライヴハウスでのギグでは以前に“アルマジロ日和”で主催者がキャパシティの限界までチケットを売ってしまったために当日のフロアが立錐の余地もない状態に陥ってしまったことがあった。この事実をファンからの手紙で知った佐野は“Rock & Soul Review”でのZEPPライヴでは自ら「ファンがフロアでダンスできるくらいの余裕のある配券をして欲しい」と主催者側に要請している。


 佐野元春のモチベーションは常にファンにある。“Rock & Soul Review”に参加することのできたファンは幸運だ。佐野の想いをキャッチボールのようにダイレクトに受け止めることができたのだから。


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