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 8月15日 bayfm 15周年 SPECIAL LIVE
佐野元春ファン・アソシエーション 
mofa 編集部 山田和弘 




取材協力: M's factory

 8月15日、真夏日が40日間続くという今年の首都圏の夏にあってはじめての肌寒いくらいの気温と朝から降る雨‐。そんな中、千葉にあるFM局、bayfmの開局15周年を祝うイベント「bayfm 15th Anniversary LOVE OUR BAY SPECIAL LIVE in PORT PARK」が千葉ポートパーク円形広場野外ステージにて開催された。
元春はザ・ホーボーキング・バンド(H.K.B.)とともに、このライブイベントのトリを務めた。午前中、かなり降った雨も昼過ぎには上がり、ライブは予定通り行われた。
野外ライブ前に雨が止むなんて、元春ファンにとってはちょうど10年前の横浜スタジアムライブ「Land Ho!」を思い出させなくもない。

 ニューアルバム「THE SUN」を発表後、H.K.B.を従えての初めてのライブパフォーマンス。また1ヵ月半後にスタートを控えたTHE SUNツアーを占う意味でも非常に興味深いアピアランスとなった。

アルバムプロモーションということで、ニューアルバムから数曲をチョイスして演奏するのではないか、とか、他の音楽ファンを考慮して多くの人が知る曲を中心に披露するのではないか、などと期待と予想をするのもワンナイト・スタンドの楽しみの一つではあるが、結果としてライブが終わっての率直な感想を述べると、そうした予想とは全く違う次元でパフォーマンスは展開された。すなわち、限られた時間にもかかわらず「起・承・転・結」が見事に組み立てられた素晴らしいステージがセットされ、オーディエンスに向けて発信された、という感じだ。

 <起>‐午後5時16分、定刻より少し遅れて登場した元春とH.K.B.。元春は赤いシャツ、黒いパンツ、それにサングラス。
1曲目は『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』。静かなイントロから徐々に盛り上がるH.K.B.バージョン。ライブのスタートにはぴったりの選曲だ。
「♪口笛を吹きながら 『夏』の街を歩いてく」と夏の野外イベント向けにちょっと変えた歌詞にお茶目な元春を垣間見る。さらっとこういうことをしてしまう元春が好きだ。
続いて『99ブルース』へ。2曲とも最近発売のシングル『君の魂 大事な魂』『月夜を往け』のカップリングで使われたアレンジに近い。どちらもバンドメンバーの個性も出て、曲の厚みも感じさせる。いい感じのスタートだ。

 <承>‐曲は初めて聴くイントロに驚かされた『ヤングブラッズ』へと続いた。オリジナルバージョンともライブアルバムに収録されているスローバージョンとも違う、ミドルテンポの新しいアレンジ。ホーンセクション、ハモンドオルガンの音色が心地よく響く。まさに「新曲『ヤングブラッズ』が披露された」という感じだ。
続いて「10代のころの思い出がたくさん詰まった曲」と言って演奏された『ハートビート』。各曲で披露されるバンドメンバーのソロに負けじと元春もブルースハープで対抗する。元春は身体を大きく動かし、全身を使って演奏するという感じだ。こうしたカッコいいシーンを見られることがライブの醍醐味の一つだ。

 『ハートビート』を終えたところで時計を見るとすでに35分が経過している。1曲8〜10分。「このバンドのメンバーは放っておくといつまでも演奏を続けちゃうんだよね。」インタビューのたび、ちょっと誇らしげに、またちょっと困ったようにH.K.B.を語る「棟梁」元春の発言が頭をよぎる。またプロモーションで出演した各局のラジオ番組でも、「『最後の1ピース』も『観覧車の夜』(この曲のオリジナルはH.K.B.ではないが。)もオリジナルバージョンは9分、10分あったのだけれども、アルバム収録にあたって泣く泣くショートエディットした」と語っていたことを思い出した。曲のオリジナリティを保ちつつ、バンドメンバーの個性を存分に発揮させようとすると1曲につきこれくらいの時間が必要なのかもしれない。
とにかく、ここまでのパフォーマンスを見て、次のツアーはバンドサウンドを前面に押し出した力強いライブツアーになるに違いないと確信した。

 <転>‐ここでいよいよ新しいアルバムからの演奏が始まる。「つい最近新しいアルバムが出ました。その中から聴いてください。」と言って披露されたのは『観覧車の夜』と『DIG』の2曲。前回のミルクジャムツアー(MJT)で「フィッシュ」「ブロンズの山羊」という仮題で演奏されていたこれらの曲。MJTではどんな曲だろうと興味津々で聴いていたオーディエンスが多かったが、ここにはもはやそのような姿はない。「みんながどんな曲だろう?と耳を傾ける新曲」はアルバムの発売により「すでにアルバムで何度も聴いている大好きな曲」へと変貌を遂げている。MJTの時よりもアルバム収録のオリジナルバージョンに近く、ラテンっぽい雰囲気が強く出された『観覧車の夜』、そして古田さんの「チバ〜!」という叫びで始まった『DIG』。オーディエンスのノリもいい。

 『DIG』を終え、元春とH.K.B.のメンバーは一旦ステージを後にする。
その後アンコールに応え全員が再登場した。元春はサングラスを外している。

 <結>‐「ホットに行こう!」と言ってアンコールの演奏が始まる。曲は『アンジェリーナ』。やはりアンコールでのこの曲は盛り上がる。これで今日のライブも終わりかな、と思っていると、曲のエンディングになっても古田さんのドラムが終わらない。ここで元春が口を開き、このステージに招待してもらえたことへの感謝とbayfm開局15周年を祝うコメントを述べた。「FMはこれからも僕たちとファンを結ぶ大事な「架け橋」であって欲しい。」中高生の多感な時期からラジオで多くのすばらしい音楽に出会ってきたという元春らしいコメントだ。

 もうステージはこれで終わりかもしれないと思っていたオーディエンスに対し、それを見透かしたかのように演奏は続く‐。『デトロイト・メドレー』。ステージはさらなる盛り上がりを見せる。

 途中で元春がオーディエンスに語りかける。
「この場をもうちょっとホットにしたい。そこでみんなにちょっとだけ手伝ってもらいたいんだ。僕が「愛する気持ちさえ分け合えればI Love You!」と言ったら「You love me!」って返してくれるかい?」元春がこんなことを言うのは珍しいな、と思っていたが、この日は他のアーティストのファンも集まるイベント。初めて元春ライブを体験する音楽ファンに対する配慮も欠かさない。

 オーディエンスとの掛け合いも楽しい感じで、ムードは最高潮だ。
『アンジェリーナ』から15分も続いた演奏を終えた後、続いて「これは僕が25歳くらいの時に作った曲。」と言って演奏を始めたのは『SOMEDAY』。客席の前のほうで演奏を楽しむ元春ファンはもちろんのこと、KICK THE CAN CREWのバスタオルを肩に羽織った若い女の子たちまでもが大喜びで手拍子をし、手を上げる。そういう姿を見てうれしくなった。時を超えて唄い続けられる曲、曲の生命力を感じさせる素敵なシーンだ。

 6時20分を過ぎ、徐々に暗くなってきた野外。前を見れば赤いシャツで『SOMEDAY』を歌う元春。後ろを見ればこの日の雨や曇り空が嘘のような赤くきれいな夕焼け。元春は僕たちオーディエンス達の向こうにあるポートタワー越しの赤い夕焼けを見ながら唄っているのかな、などと考えていると演奏が終了した。大満足の70分間であった。

 このような完璧と言ってもいいライブの組み立てを前にすると、当初自分の考えていたこの日のライブの予想があまりにも稚拙で恥ずかしくなるが、逆にそうしたオーディエンスの予想をはるかに上回る準備とアピアランスを常に見せてくれる元春に僕らは魅了され続けているということもできる。
この日のイベントでは元春ライブ初体験の音楽ファンも、何度か元春ライブを体感したことのある経験者のどちらに対しても満足させるという、バランスのとれたパフォーマンスが展開されたと思う。

 僕らオーディエンスは今日のステージの満足感と、近づくTHE SUNツアーに対する大きな期待の2つを胸に、秋を思わせるような涼しい風を感じながら、毎日がこのくらいの涼しさになる頃いよいよツアーが始まるんだなと思いながら駅へと向かった。



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