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 8月29日 Mt.Fuji Jazz Festival 2004
佐野元春ファン・アソシエーション 
mofa 編集部 山田和弘 


取材協力: M's factory

 2004年春先のインタビューにて、今年の課題として『鎌倉以外での場所における「スポークンワーズ」表現によるライブを行うこと』を挙げていた元春。8月29日、元春はその課題を実行した。それも「マウントフジ・ジャズ・フェスティバル2004」という大舞台で−。

「マウントフジ・ジャズ・フェスティバル」といえば、1986年から続く日本でも有数のジャズ・フェスティバルである。そこに佐野元春が登場し、「スポークンワーズ」を披露するという。

「スポークンワーズ」とは、元春が80年代「エレクトリック・ガーデン」というカセットブック作品で表現をはじめた形態であり、簡単にいえば音楽に乗せた詩の朗読、「音楽に彩られた言葉のアート」といったところか。元春は通常のロックンロール音楽とは別に、「スポークンワーズ」表現の可能性を長年実験、探求し続けている。最近では2001年、2003年にそれぞれ「in motion 2001 − 植民地の夜は更けて」、「in motion 2003 − 増幅」という2回のライブイベントを鎌倉芸術館にて開催し、成功させている。

鎌倉芸術館では、比較的こじんまりしたホールで、元春とオーディエンスが対峙して、通常のロックンロールライブとは異なる緊張感・緊迫感の中パフォーマンスが繰り広げられた。それが今回は大会場、しかも野外でのパフォーマンスである。どんなステージが展開されるのか、期待は膨らんだ。

九州に上陸が予定される台風の影響か、当日の会場はあいにくの雨であったものの、元春の登場を前にしてそれまでの強い雨が嘘のようにあがった。

定刻に進行の赤坂氏が登場し、佐野元春のステージの開始を告げ、バンドメンバーと元春が姿を現した。ロックンロールライブでもおなじみとなったサックスプレーヤーの山本拓夫さんの姿も見える。一人ずつメンバーが紹介されるたびに大きな歓声が上がるあたり、それぞれがジャズの世界での第一人者であることが想像できた。

白いシャツ、藍色っぽいパンツで姿を現した元春。元春が手をクラップしてリズムをとり『ポップチルドレン』の演奏が始まった。ドラム・パーカッションが元春の手拍子に呼応していく。鎌倉でのクローズドな空間で繰り広げられたそれに比べて、若干遅めのテンポ、重厚な感じのスタート。

1曲目を終え、今回の歴史あるフェスティバルに参加できたことへの感謝と、いつもと違う演奏、「スポークンワーズ・ジャズ」を聴いてください、とのMC。続いての『あぁ、どうしてラブソングは』もやや重厚なアレンジ。その後ドラムスとベースだけが言葉を支える『ベルネーズソース』、曲の最後のベースプレイが印象的な『こんな夜には』、井上鑑さんのピアノソロが堪能できる『何もするな』へと演奏は展開された。

さて、今回のステージでひとつのアクセントとなっていたのはパーカッショニスト仙波清彦氏のパフォーマンスだ。彼の前にはものすごい数の楽器。見慣れない楽器を用いての演奏が繰り広げられるたび、重厚なサウンドの中、その楽器によってどんな音が奏でられているのかを必死で聴き分ける。視覚と聴覚が一致する瞬間、その楽器の音が認識される。ああ、このチューブのような楽器は端の方を持って振り回すように動かすとこの風のような音が表現されるんだな。あの楽器は叩くとかなり硬い音が出るんだな−。一つ一つが発見だ。これらがもし、サンプリングされた音を使ってボタンひとつで表現されていたならば、ここまで耳をそばだてて一音一音を追うという行為はしなかったのではないか。このような配慮はアルバム「THE SUN」の制作において「オーガニック」という言葉を用いて生音の響き・力強さを重視した現在の佐野元春の表現におけるこだわりに一致する。

この耳に響き目にも楽しいパーカッショニスト仙波氏のパフォーマンスは、同時にいくつもの楽器を操る彼の能力の高さを示すと同時に、あまり音楽に詳しくないオーディエンス(家族連れなども多く見受けられた)に対して、音楽の楽しさを伝えているようでもあった。

ステージでは続いて、『日曜日は無情の日』へ。元春はクラシックギターを持ち、イントロを奏ではじめた。なぜかこの曲だけは野外の大会場で演奏されていることをまったく感じさせなかった。静かなメロディと元春の柔らかな語りを聴くにつけ、この瞬間に雨が落ちていないことに感謝した。

その後元春によりバンドメンバー紹介が行われ、この日最後の曲『何が俺達を狂わせるのか?』が始まった。「♪以前よりもっと狂って、まもなく『2005』年にさしかかる」と歌詞を変える元春に、昨年の鎌倉公演から早くも1年近くが経過していることをふと思い出させた。

この曲は徐々に盛り上がりを見せた。特に終盤の「♪1センチ・2センチ・3センチ…。」と繰り返し元春から発せられる声と山本拓夫さんのサックスによって表現された言葉と楽器の応酬は、その断片を切り取ればいつものロックンロールライブで繰り広げられる元春と山本さんのパフォーマンスとなんら変わるところはない。「佐野元春の表現」というくくりにおいてもはやポップソングもスポークンワーズも大きく違うものではない、と言い切る元春の発言の真意をこの熱いパフォーマンスから一瞬垣間見た気がした。

約1時間にわたるステージはオーディエンスの大きな拍手をもって幕を閉じた。

この日のステージにより、元春はクローズドな空間で静かに表現されるもの、というイメージのあった「スポークンワーズ」が大会場、しかも野外においてもしっかりと成立するということを証明して見せた。

ジャズファンも自分の好きなジャンルの音楽とともにステージを展開する佐野元春を見て、佐野元春表現の幅の広さの一端を感じたに違いない。
若いミュージシャンと同じステージに立つイベントにも積極的に参加する。また今回のようにジャンルの違う音楽ファンの集う場にも果敢に挑む−。佐野元春は挑戦を止めない。この挑戦する姿勢は、どんなにすばらしい歌詞よりもわれわれファンを勇気付ける。

そしていよいよロックンロールライブツアーへ− 元春の歩みは止まらない



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