■ファンサイト? オフィシャルサイト?

今井 2000年頃かなあ。さっき話した元春ホームパーティとMWSの関係みたいな捻れ方が、今度はMWSと個人サイトの間で起こったんですよね。なんかこう、MWSが権威的な存在に見られてしまった。全然権威的じゃないのにね。
「あんなこといいな、できたらいいな」っていう純朴な欲求を形にしたら、そこに権威がついてきた。こうやってひとつの時代が変わっていくのかと。
宮田 MWS以外のファンサイトを客観的に評価してリンクを張っていこうとしたら「依怙贔屓するな!」と言われてね。
今井 そのときにいくつかのファンサイトの方とやりとりをしましたけど、「ああ俺たちが偉い人になっちゃったから反抗してくるんだ。こうやって捻れていくんなら、止めちまえ」って思い、そのアイデアはお蔵入りにしました。でもまあ、それまでやってきたイベントや企画なんかを考えれば、権威的に捉えられても仕方がないのかな。
前例のないストリーミング配信を成功させて、佐野さんが登場するネットイベントやって、ネットショップを立ち上げて、インターネットラジオをやってって言ったら、それってオフィシャルサイトと何も変わりませんからね。それでいて、ファンサイトですって無邪気に言っていたのは、ちょっと迂闊だったのかもしれない。
遠藤 MIPSのなかでも感じていたよね。みんな勘がいいから。同じ線路に乗っかっているんだけど、これから先に行きつくところは、音楽配信をやったりモノを売ったりって、いわゆる企業のロジックになるわけで。それまでは週末みんなで集まっての楽しい趣味だったけど、みんな年もとって自分の仕事も充実してくるとね、接し方は変わってくる。そこも大きかった。
宮田 僕が米田さんからWebマスターを引き継ぐときに、その前にやっていたeTHISも一緒に引き継ぐことになって、それは相当戸惑った。MWSを引き継ぐと思っていたから。
今井 eTHISをやったことは、サイトの質的変化においては大きかったよね。で、時期的にはナローからブロードバンドへの移行があったのもサイト運営にとって大きい変化なんだけど、今後はそれがどう影響していくんだろう?
宮田 それはブロードバンドで面白いことが、やりたいことが見つけられるかってこと。映像流したりラジオ流したり、それはMWSでもうやっちゃっているから、何か面白いことがない限りは、あまり関係ないかも。
遠藤 ADSLで高速になったことも大きいけど、接続コスト自体がグっと下がったじゃない。それで間口が広がるのは当たり前で、いつでもどこでもネットに繋がると、いろんな表現者が出始めてくる。佐野元春の立場は何も変わらないけど、MWSとファンの関係はいろいろ変わってくる。
道向 利用するコストは下がったけど、作り上げるコストは上がっていく。作ることってまだまだ大変だからね。
遠藤 面白いものを作れる人と作れない人の差がはっきりしてくる。感想を書くだけだった人たちも、Flashとかテキストで表現をしてくる。そういう時代において、ファンサイトとオフィシャルを両方やってきたMWSの難しさ。迷っちゃう。
宮田 迷っちゃうだけの歴史と幅があるってことだよね。普通のオフィシャルサイトを作るって考えても、MWSが前例としてあるから、何か面白いことできないの?って思う。だから上り方向で1chでもいいから穴を開けておきたいし、メディアリッチな方向にしても、何か違う形って考える。
今井 ブロードバンドになると、もうなんでも配信できるんですよ。もしかしたら10年後はこのコーヒーカップですら配信できちゃうかもしれない勢いですよね。だから頭の中の箍(たが)を外せば何でもできる。つまりブロードバンドで何でも受信できるってことで、そうなると、ただ見ているだけって人が増えてくる。それはMWS的には、ちょっとつまらないかな。MWSってファンの欲望を受け止めて、それを形にしてきたサイトなので、欲望のインプットが少なくなってくると、サイトの動きも鈍い。ファンとMIPSの間で意思の循環が起こっていないといけない気がする。コミュニティは、家庭とか会社とかBlogとか2ちゃんとかで成り立っていけばいいから、MWSは知恵の集約の場になりたい。
遠藤 関心空間もそうだし、はてなブックマークなんかもそう。それって佐野元春への意識の人格化なのかな。Blogって動きはいいことだと思うんですよ。あとはBlogのためのリソースのディストリビュータだったり、一括して見れる場であったり。メディアじゃないでしょ?
今井 メディアっていう側面があってもいいけど、それだけを意識してやることじゃないよね。
遠藤 MWSって、佐野さんが雑誌THISとかで提示したものに沿っている側面はある。佐野さんが提示したものを追っかけていたから、間口を広く取りたいって意識があった。佐野さん自身もエレクトリクガーデンとかやっていたから、自分の表現媒体としてのインターネットというのが、ここ数年強く出てきたかな。ずーっと「いつ始めるんだろう?」という気もしていたし。インターネット版エレクトリックガーデンはいつ?って話もたくさんあったし。
道向 佐野さんの表現の場としても考えていると思うんだけど、佐野さん文化、それはBEATって言葉なのかもしれないけど、そっちの方向でも引っ張ってくれるサイトがあるといいなあ。
遠藤 9.11のときに「光」をネットに出してきて、あれってターニングポイントだと思った。ああ、Webをそういうふうに使う意識が出てきたんだなと。
滝口 私は留学したから途中でMIPSを離れたんだけど、それまでは遠くにいても集まれる場だって信じていた。だけどいざ自分が離れてみると実はそういう場ではなかった。それですっぱりアクセスを止めちゃった。でも9.11のときにテイクバックした。コミュニティとしてのMWSではなくなっていたけど。
遠藤 一時的でも佐野さんの表現の場になったじゃない。あれでひとつの仕事を終えたかなーと凄く感じた。
今井 僕はそれをeTHISのときに強く感じた。それまでMWSは自分たちで作っていた意識があったけど、eTHISとそれ以降は、佐野さんをサポートするって意識。音楽家である佐野元春がサイト上でもっと前に出て行くべきで、そのための活動の支援ですよね。
遠藤 それは自分たちが主体的になってやりたいことではないかなあ。
今井 僕はその道が正しいと思ったクチだけど、自分たちが情熱をかけて主体的にやる場ではなくなるわけだから、みんな色々考えたと思う。
遠藤 だからTHISイベントのときは、「これで終わりにするか」って、凄い労力をかけてサイトを作ったし、あれで一区切り。
今井 そういう変化があったからね、インターネット版エレクトリックガーデンにしろ何にしろ、もう佐野さんの中から出てくる以外はあり得ないんですよ。うちらが場を用意するようなもんでもないし。「光」は我々にとっても不意打ちでしたが……、不意打ちでしたよね?
宮田 僕の生涯の中でベスト3に入るくらいドキドキしてた(笑)
今井 すると次に考えるべきは、佐野元春の音楽活動とネットというものをどう融合させるか、なんですが、このことを今後10年真剣にやっていかないと、MWSはもう何も変わっていかない。
宮田 そこは佐野さんの生業の部分だから、それはやる。その一方で、やりたいようにやるMIPSがいて、作った場所なんで、そのシードはもう一度見直して、変な話、表口と勝手口みたいにMWSにトップページが2枚あって、ここから先は佐野さんから支援を受けずに、盛り上がった人がどんどんやっていく。それがシンジケートになって、Blogとかでどんどん繋がっていく場となる。
遠藤 佐野元春という題材を使って、僕らが表現した場じゃん? だって自分たちの楽しみを優先したところはあるでしょ。僕らが楽しめばファンも楽しいだろうしさ。凄く表現をしていた。それが佐野さん自身がここで表現をしたいって話になったので、もしそこに面白さがあるんだとしたら、宮田さんが言ったことってあるのかもしれない。
宮田 佐野さんの表現の場と、オフィシャルサイトという場と、ファンによる場、というものの融合って、3つ目が難しいかもしれないけどできると思う。



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